第28話 漫画新人賞の発表
◇中三、冬◇
十二月一日。
筆子が「クリーム王子とイチゴ少女」を投稿した漫画新人賞の発表の日。
彼女と僕は放課後急いで書店へ行き、漫画雑誌を購入した。そして店を出るなり新人賞発表のページを開いた。
そこに作品名と筆子のペンネームが出ていた。
「クリーム王子とイチゴ少女 ウインターペンシル」。
ウインターペンシルというのが、彼女のペンネームだ。
ただし、新人賞受賞ではなく、最終選考作品だった。佳作とか審査員特別賞とかも取れなかった。
「落ちた……」と筆子は見るからに落胆してつぶやいた。
「初めて投稿した作品が最終選考に残ったというだけでもすごいよ」と僕はなぐさめた。本当にそう思っていた。商業雑誌に、作品名とペンネームが印刷されたのだ。快挙じゃないか。選評も載っていた。
「背景はうまいが、キャラクターは顔だけしか描けていない。魔法が使えないヒロインという設定は不自然で、感情移入しにくい。人物の絵をもっと練習してほしい。次回作に期待」
それが編集部の評だった。
筆子にとってはかなりの酷評だった。彼女はショックを受けていた。
「背景……わたし描いてない……。誉められたのは、虹くん……」
僕にはかけることばが見つからなかった。あまりにも筆子にとって酷な評。魔法が使えないヒロインがいたっていいじゃないか、と僕は強く思った。事実ここに、そういう人がいる。筆子がいる。魔法が使えなくてもがんばって生きている。
「キャラが描けてないって。これ、わたしのことだ……」
彼女はつらそうで、目に涙がにじんでいた。
「魔法が使えないヒロインには感情移入できないの?」
筆子の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。僕は魔法使いじゃない彼女の気持ちが少しはわかるつもりだ。長いこと一緒にいるから。泣き言は言わないが、強い劣等感を抱いている。欠陥人間なんじゃないかと心の底では悩んでいる。そしてそれを払拭するように漫画に熱中している。
「剣道少女」や「クリーム王子とイチゴ少女」で彼女は魔法が使えないキャラクターを主人公にして、それでもがんばって生きる姿を描いた。それは筆子そのものだ。僕はその設定自体は悪くないと思っていた。感情移入できた。それをひと言で蹴った編集部は厳しすぎると思った。
だが、作品がまだ未熟だったせいかもしれない。魔法が使えないキャラをリアリティを持って描けていたか。どうだろう。選考委員に伝わるほどには描けていなかったのかもしれない。
まったくだめな作品でもなかった。最終選考には残ったのだ。選評では背景とキャラの顔しか評価されていなかったが、ストーリーがまるっきりだめでもここまで残ることはなかっただろう。それをなぐさめとするしかない。
「まだ一作目じゃないか。これからがんばろうよ」
「う……うう……うわぁーん」
筆子は書店の前で大泣きした。通りかかった人がぎょっとして見ていた。僕は「泣くな」とは言わなかった。思いっきり泣けばいい。
「もう漫画なんて描かない!」とまで彼女は言った。
そんなことは絶対にないと僕は知っていた。これぐらいのことで、筆子が漫画をやめるはずはない。本当に絵と漫画が好きなんだから。
実際、彼女は筆を折ったりはしなかった。翌日の昼休み、もう次の漫画のネームを描いていた。懲りないやつだ。
「今度こそ……」とつぶやいていた。
「受験勉強しなよ」と僕は言った。
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