第27話 中三の文化祭
十月中旬、会誌原稿締め切りの日にちゃんと原稿が出揃った。
表紙は「秋月冬華像」。キャラクター原案は筆子。作画は僕。筆子が描くよりやや写実的な冬華になった。イチゴのショートケーキを前にしてフォークを持っている笑顔の冬華。
「いいですね、この表紙」と兵藤さんが誉めてくれた。
巻頭は筆子の漫画「マラソンランナー」。二十四ページ。彼女得意のスポ根もの。
続いてまた筆子の「100メートルランナー」。八ページ。これははっきりとしたストーリーのないイラスト的な漫画だ。絵はとてもいい。
次に双葉くんの恐怖漫画「視線」。十六ページ。筆子を震え上がらせた力作だ。絵のうまさは僕や筆子には及ばないが、中学二年生としてはよくがんばっていると思う。
それから僕のイラスト「深海魚シリーズ」。四枚描いた。不気味な絵だ。今年の会誌は中盤にホラーが詰まっている。
その次に兵藤さんがパソコンで描いたイラストが六ページ。六人の歴史上の人物をキャラクター化して描き、兵藤さんの思い入れを書いた文章が添えられている。絵は稚拙だが、文章にはユーモアがあり、楽しめる。
ラストは井上さんの四コマ漫画「漫研の日常」。二ページ。僕たち漫研会員が二頭身のキャラと化し、見事なギャグ漫画となっている。それを見て、僕は彼女に才能があると初めて知った。くそっ、もっと叱咤してたくさん描かせるべきだったと思ったが、後の祭り。まぁいい。双葉くん、兵藤さん、井上さんがいれば、来年も漫研はやっていけるだろう。それが確認できたのは収穫だ。
「これで印刷所に入稿できる。みんな、おつかれさま」と僕は言った。
わりと個性的な会誌ができるんじゃないかと思った。スポーツ、ホラー、深海魚、歴史、四コマ。中学校の漫研としては、なかなかの品揃えではないか。
十一月の第一土曜日に文化祭が開催された。
筆子と僕が加入してからうちの会誌はレベルが高いという評価が一部にあって、開催直後から順調に売れ続けた。会誌を求めて行列ができるときすらあった。
「この表紙、誰が描いたんですか?」と訊かれたこともあった。
「僕です」と答えると、サインを求められた。サインを書くなんて初めてだ。
午前中に二百部すべて売り切れてしまった。しまった、もっと刷るんだったと思ったが、それも後の祭り。
午後に来たお客さんから「会誌ください」と言われても、もう品がない。「完売御礼」という札を出した。それを見て残念がる人もいた。
僕と筆子はあまり他の会場を見て回ることなく、漫研会場に居続けた。三年間の漫研生活がこれで終わった、という感慨があった。
来週から会長は僕から双葉くんに交代する。
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