第23話 りりかの訪問

 下描きが完成した日の夜、りりかから「今からそっちに行っていい?」というメールが届いた。

「いいよ」と僕は返信した。

 瞬間移動で、すぐにりりかが僕の部屋に現れた。

「ジュースでも持って来ようか?」

「うん。ありがと」

 僕はキッチンへ行き、コップに氷を入れてリンゴジュースを注ぎ、部屋に戻った。

 りりかがジュースに口をつけた。前からきれいな子だったけど、最近は胸が大きくなって、脚にも色気が出てきて、美少女ぶりに拍車がかかっている。その彼女が僕のベッドに座って脚を組んでいて、目のやり場に困った。

 しばらく無言でいた彼女が、僕の目を見て言った。

「最近、冬月さんのところによく行っているの?」

「うん」

「ひょっとして、付き合い始めたの?」

 二年前、野村さんにも同じことを聞かれた。りりかの目は真剣だった。

「付き合ってない。漫画の手伝いをしてるだけだよ」

「そう」

 彼女の表情がゆるんだ。ほっとしたように見えたのは気のせいだろうか。僕と筆子が不純異性交遊をしていないか心配しているとか。まさかね?

「あたしともたまには遊んでよ」

「うん。そう言えば、最近、冒険部の活動はどうなの?」

「活発にやってるよ。みんな喜んでくれてる。あたし、国内の観光地にはかなり詳しくなってきた」

「すごいね、りりかは」

「虹はどこか行きたいところとかないの? 連れていってあげるよ」

「そうだなぁ。自然のきれいなところに行ってみたい気持ちはあるけど、今は絵を描くのに忙しいから……」

「冬月さんの漫画の手伝いが忙しいの?」

「うん。筆子は漫画の新人賞に投稿するつもりで真剣に描いてるんだ」

「虹は冬月さんにべったりね。ちぇっ」りりかが舌打ちした。

「彼女、今はどんな漫画を描いているの?」

 その質問にどう答えるべきか、僕は少し迷った。僕に似たキャラと筆子に似たキャラの恋愛ものとは答えにくかった。

「ラブストーリー」とだけ答えた。

「ふぅーん。彼女がラブストーリー? スポーツものばっかり描いていたのに」

「うん。たまには別の分野に挑戦したいんじゃないかな」

「そうかなぁ? 冬月さんも恋愛に興味が出てきたんじゃないの?」

「どうだろう。よくわからないな。あの子の一番の興味は常に漫画を描くことだよ」

「それはそうだろうけど、でも好きな人ぐらいいるんじゃないの?」

 筆子の好きな人か。それを考えると、胸の内がざわめいた。

「わからないよ」

「虹は鈍感だからね」

 僕は鈍感なのかな。決めつけられてちょっとムッとした。

「言いすぎだよ。僕は別に鈍感じゃない」

「鈍感だよ。あたしの好きな人はわかる?」

「そんなのはわからない……」

「やっぱり鈍感」

「僕の知っている人なの?」

「そうよ」

「誰だかわからないけど、告白してみれば? りりかなら、オーケーしてもらえるんじゃない?」

「それがそうでもないのよ。片想いで、告白したらふられそう」

「きみをふるやつがいるとは思えないな」

「虹はバカね」

 バカ呼ばわりされて、僕はさすがに鼻白んだ。抗議しようと思ったけど、りりかが浮かない顔でいるのからやめた。

 りりかはジュースを飲み干し、「帰る」と言って消えた。

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