繋ぐ愛手

春風月葉

繋ぐ愛手

 時間の重さを知ったのは、関係を失ったときだった。他愛もない会話、見慣れた帰り道、彼女の笑い声。それは繰り返せると思っていたいつもの一コマ。

 しかし、終わりは突然に訪れた。難しい言葉はなかった。ただ、別れを切り出されただけだった。本当に簡単なこと、それなのに馬鹿な私は理解ができなかった。そのときはただ、夢を見ているような、そんな感覚だった。

 その晩、夢だと思っていた現在は少しずつ実感に変わっていく。小さかった傷はやがて大きく広がり、私は全身を引き裂くような耐え難い痛みに襲われた。

 そして漸く、私は一つの答えに辿り着くことができた。今となってはもう遅すぎたのかもしれない。繋ぐ相手を失った右手で虚空を掴む。この手はもう何も掴めない。軽くなった右手が私に彼女との時間の重さを教える。

 重さは消えても痛みは残る。この右手がいつか誰かの左手に収まれば、傷も癒えるのだろうか。

 軽くなった空っぽの右手を高く空へと伸ばした。皮肉なほど眩しい太陽をぎゅっと掴む。失った時間に比べれば、太陽でさえも軽く感じた。

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繋ぐ愛手 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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