10話

 指定されたミッションを熟せば身体能力が上がる報酬があり、実際の戦闘や行動に大きく影響が出て来る。この報酬は、普段の行動からでも何かしらの条件が達成されていき、更に魔法やスキルといった報酬が手に入る。

 

 アルスは頭を抱え一人自室で悩んでいた。これは神の贈り物であり、強くなるには必要なことなのだろうか?

 これは神の罰であり、自分が不死身になることを見透かしていたのだろうか?


 アルスはこれまでに沢山の身体能力強化ミッションをこなし、己を鍛え上げてきた。しかしその反面、アルスの命を救った最初に獲得したスキル。《諦めない心》は、アルスを不死身の身体へと変えた。

 いくらアルスが"死にたい"と生きることをも、スキルは正常に発動し、どんな致命傷でも即座に回復してしまう。

 そう。死にたくても死なないのだ。

 最早これは一種の呪いと言えよう。


 ただこれによってアルスは現在、自殺することを踏みとどまっているが、それ以上にこれからどうこのステータスに対応したら良いのかが分からなくなっていた。


 そう暫くアルスが悩んでいると、自室のに男性の声とともにノックする音が聞こえる。


「アルス。いるか?」


 アルスの父。ファータの声だった。ファータは曹長に当たる階級であり、上層部では無いが、上層部に知り合いの間で繋がっている分では多少の情報がファータに流れる。

 ファータがアルスの元に来た理由は上層部に報告されたアルスのことについてであろう。父親が本来聞くはずも無い、上層部から息子の名前が出れば心配するのも当然だろう。

 

 そうファータは声をかけるがアルスはそれを拒否する。

 上層部にどう自分のことが報告されたのかは分からないが、恐らく、いや決して良い方では無い筈だとアルスは悲観的になっていた。


「いないよ。僕のことは暫く一人にしてくれ……ごめん」


「済まないがそういう訳には行かない。アルス。勝手に入るぞ」


 ファータはアルスの拒否を無視して、鍵の掛かっていない扉を勝手に開いた。

 この行動にアルスは何をされるのかと、頭を抱える姿勢から更に縮こまり警戒するが、そのファータは怒気では無く、心底哀しげな心配した表情を浮かべていた。


「アルス……何をそんなに怖がっているんだ……俺がアルスに"こんなこと"で怒る筈が無いだろ」


 "こんなこと"? アルスは自分のやってしまった行動にこんなことと言われ、ファータにただならぬ疑問を持つ。


「こんなことだって? 僕は対戦相手に怒りを露わにし、挑発に乗った上に危うく殺しかけたんだ! 剣から炎を噴き出すなんて、普通は有り得ないだろ! もしエイファルがあの攻撃を避けていなかったら僕は……確実に人を殺していたんだ……。

 でも、今回に関しても兵士の地位を剥奪されることは間違いないだろう……。僕と父さんで築き上げた十二年間の努力も、入隊してから今までの八年間の努力もみんな水の泡だ……。

 僕はやっぱりこの力に過信していたんだ。過信していたからこそ故に、罰が下された」


 アルスは悲観的になる理由を全てファータに吐き出した。

 アルスの行動による結果がどうであれ、父親と築いてきた努力が無へと帰るのが、アルスにとっては何よりも悔しいことだと。


 この答えにファータはアルスが事実も知らずに自分で捻じ曲げていることに少し語調を強めてそれを訂正する。


「アルス。父さんはお前を慰めに来た訳じゃない。上層部からのお前に対する処罰を伝えに来ただけだ。そう悲観的になるな」


「やっぱり僕は罰せられるんだ! 人を簡単に殺しかねない力を持つ僕を上層部が放っておく筈が無いよね?」


「アルス。良く聞きなさい。お前は別に地位を剥奪されることも、拘束される事も無い。俺だって何度も上層部に掛け合ったんだぞ?」


「え?」


「お前の処罰はこのようになった。あーゴホン。俺としては少し遺憾ではあるが、予想より遥かに軽い処罰となった」


『アルス二等兵の処罰。二項目について。

 アルス二等兵は、騎士団内の模擬戦において基本的なルールの範囲を逸脱した違反。

 騎士団内の兵士、同僚に対して殺人未遂を犯した。これによってアルス二等兵には厳罰を下す。


 第二項。アルス二等兵には騎士団の一定戦力を上回る。国として脅威となる力を持っている疑い有り。

 人間並外れた身体能力、超高速自然回復、燃える剣等々……多数の目撃情報有り。

 これら二項の処罰の結果は、アルス二等兵の階級をアルス准尉まで引き上げ、国の戦力になる事を期待する』


「という訳だ。お前は二等兵から准尉に飛び級だ! これは俺よりも上の階級だぞ? 本来なら嬉しい筈だが……階級を上げられた意味は分かるか?」


「最後に言ってるね……戦力になれって」


「そうだ。アルス。お前は地位を剥奪される代わりに、お前の異常な力を国は利用すると言っているんだ。

 つまり、言い方は悪いが……お前は国の脅威であり同時に兵器として扱われるということだ……」


「兵器……僕はもう人間では無いのか? 地位の剥奪を代わりに人権を捨てろってことかな?」


「あぁ、言っちゃ悪いが国はお前の事を人間だとは思っていないだろうな。いや! 父さんは勿論、アルスの味方だ。アルスは今でも俺の大事な息子だ。

 アルス。お前はこれから国の力として使われるかもしれんが、これはお前にとってチャンスともなり得る。

 兵器として生きるならそれでも自由だが、アルスには夢があるんだろう? なら! その力を国のお偉いさんに誠意をもって示すんだ! そうすればきっとアルスの考えは国に通る筈だ」


 アルスに下される罰とは、現階級を二等兵から准尉に引き上げ、国の脅威として扱う事だった。これにアルスは悲観的な考えから何とも言えない気持ちになるも、ファータはこれはチャンスだとアルスに希望を持たせた。


 准尉という階級にもなれば実力次第ではすぐに上層部に声が届く程であり、実質兵器として扱われるアルスは、そこに誠意が有れば戦争では無く平和の為に使う物だと示す事が出来る。そうファータはアルスに伝えればアルスは確かな希望を持ち始めた。


「そっか。僕は確かに兵器になるかもしれないけど、これも夢への第一歩なんだ……! 父さん、伝えてくれてありがとう! 僕はもっと上を目指して、今度こそ強くなってみせるよ!」


「よおし、それでこそアルスだ! 俺の上でも頑張って来いよ!」


「うん!」


 こうしてアルスは悲観的な考えを改め、もう一度希望を持った。次こそは更なる力を付けて、国の希望になるのだと。

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