5話
アルスは医務室で目を覚ました。
「またここか……」
アルスはふと模擬戦のことを思い出す。結果は一勝零敗。思い出すまでも無く分かりきった記憶だった。
恐らくこんな成績では階級は一つも上がらないだろうと、また静かに目を瞑る。
目を瞑っても見えるステータス表示に、アルスは閉じる瞼の中で目だけでステータスを見る。そこに、見覚えのないスキルが新たに追加されている事にハッと目を覚まして、スキル表示を凝視する。
《勇者の闘志》
自身より強い相手に向かって勇気を出した者に贈られたスキル。
その勇気は所有者に通常以上の力を与える。
[効果]
・戦闘開始時、戦闘終了まで
全ステータス+5
「戦闘開始時に自動的に能力が強化されるのか! なんて心強いスキルだ。だが油断してはダメだ。模擬戦だって一勝しただけでスタミナが切れたんだから……」
アルスはこれで三つのスキルを獲得した。どのスキルも強力な物で、心を躍らせていた。ただ、もう一つ気になる事があった。
それはステータス表示の『
アルスがその表示を見つめればLvとは何のかが分かるが、何にどんな影響を与えるのかがさっぱり分からない。
[Lv]
これは貴方のレベルです。全てステータスの上昇とは関係が無く、隠された条件を達成する事で強化されます。
スキルレベルは、このレベルを超える事は出来ません。
スキルレベルとは? 隠された条件とは? 書いてあることが何一つ分からない。アルスはきっと後々に分かることだろうと首を振り、先ずは更なる鍛錬のことを考えることにした。
確か、まだ達成していない鍛錬の条件があった筈だと、ステータス表示に向かって能力強化ミッションよ映れ念じれば、その通りになる。
この一か月間でアルスは漸くステータス表示の管理の仕方を理解してきた。もしかしたらまだ知らない機能があるかも知れない。
そう信じて、アルスはまるで子供が機械を興味本位で分解する時様に少し興奮していた。
-能力強化ミッションVⅢ-
・素振り5000万回 達成
達成報酬:
・体力+8
・筋力+8
おめでとうございます。全ての能力強化ミッションを完了しました。
コンプリート報酬:
・全ステータス+10
それから二週間、アルスは無心に鍛練し続けた。未だに階級は二等兵という新兵も変わらない実力だと知られているが、いつか必ず階級を一段階は上げ、夢への一歩を踏み出すのだと。アルスは意気込んでいた。
して、無心に鍛練し続けた結果、遂に文字通りの限界が来てしまった。ステータス表示にて、『能力強化ミッションの全完了』。これにアルスは酷く失望する。
どんなに過酷でも良い、達成に一年かかろうが必ずやり遂げて見せる。そう思っていたのに、まさかの全完了のお知らせ。
もうこれ以上能力を強化する事は出来ないのか。
ただ、ステータス=実力とは思っていないが、唯一の楽しみが消えてしまった。
「そんな、もう終わってしまうのか……ふむ。なら次はこの魔力とやら表示の意味を調べてみるか……?」
長い間、ただ夢を叶えるべく鍛練してきたアルスだが、そのステータス表示の中で最も実感が無く、謎だと思っていた数値があった。
それは魔力である。勿論、魔力の数値を見つめていると説明文が表示される訳だが……先程のスキルレベルと同じく、全く理解が出来なかった。
[魔力]
これは貴方の超常的な能力の強さを値にしたものです。これが高いと魔法の威力と、使用出来る魔法の種類が増えます。
現在使用可能魔法:
・
……。魔法とは何だろうか? アルスの住む世界には魔法という概念は無い。鉄も火も水も電気もあるが、魔法というものは無い。
原理は分からないが、アルスの住むセレクリッド王国は、王の暮らす、王国の中央にある王城の地下にて、凡ゆる物質と自然エネルギーを生成して、王国全体に送り込んでいると言う。
ただその事実は誰もが知る事で有れど、極秘情報として守られている為、どういった原理で作られているのかは全くの不明なのである。
アルスは暫く考える。超常的な能力と書かれている分は恐らく、通常では有り得ない力を示しているのだろう。
たがそんなものはアルスの持つステータスの時点で奇跡的であり、本来なら有り得ないと言っても過言ではない力を引き出す。その為、超常的な能力と言われてもしっくり来なかった。
ただ一つだけ。超常的な能力を説明づけることが出来そうなそれにアルスは目を付ける。
『現在使用可能魔法:焔の剣』
字を見れば、火に関係する物だと分かるが、魔法とはそもそも何なのか分からないので、この字にどんな意味があるのか。どうすれば発動するのか。アルスは顎に手を添えて考える。
試しにステータス表示に指で触れてみる。
たがその指は空を切り、何も反応しない。当然、今まで触れようと思ったことが無いのだから触れてもなにも起こらないのは決まっていることだろうとアルスは判断する。
ならば、最近覚えた念じる方法は?
アルスは、頭の中で『焔の剣』と念じる。剣と書かれているのだから、今までの身体の自動回復のように、普通はあり得ない光景。スキル発動の様子を見ると、もしや手から剣が召喚されるのでは無いか? と想像するが何も起きない。
なら、剣を持った状態では?
アルスは医務室に有る適当な指差し棒を剣とし片手に持つと、もう一度頭の中で『焔の剣』と念じる。
「なっ……!? こ、これは……?」
すると、指差し棒が突然、激しく噴き上がる炎を纏い始める。アルスの持っている柄の部分だけを除いて、鉄で作られた棒の部分と指をさす先端の部分が燃え盛る炎に変わる。
暫くすると指差し棒は炎を吸収し、超高熱に熱された鉄のように赤白く輝く棒へと変わった。
まるで炎は手持ちのギリギリまで燃えるマッチ棒のようなのに、不思議とアルスの手には熱さを感じなかった。
本当に熱いのだろうか? そう思ってアルスは恐る恐る赤くなった棒の部分に触れる。
「あっっっつ……!!」
思わず指差し棒を手から離してしまった。床に落ちた指差し棒はじゅうと音を立て、医務室の白い床を小さく焦がす。
驚いて手を離してしまったが、アルスの手で感じたその熱さは、火傷レベルの物では無かった。ふと触れた手を見れば一瞬にして焼け爛れているでは無いか。
一瞬触れただけでこの熱さ。何度かと言われれば軽く千度は超えると言っても良いだろう。
殺傷能力が高すぎる。もしこれを本物の鉄の剣に発動し、人を斬ればどうなってしまうのか。想像するだけその結末が分かってしまう。
アルスはこの魔法を本当に必要な時にしか使わないと心に決めた。
模擬戦を終えて、スタミナ切れで医務室に運ばれたアルスは、十分なスタミナ回復の為に直ぐには自分の部屋には戻らずに、暫く医務室のベッドに座って過ごす。
スキルの《諦めない心》により、手の焼け爛れは、いつの間にか治っていた。
多少の傷でさえもこのスキルは治してしまうのか。と、スキルの名前を見ながらアルスは一人で苦笑を浮かべる。
暫くそうしていると、医務室に白衣を着た医者が戻ってくる。
「やぁ。目を覚ましたか。この前も思ったけどアルス君は凄まじい回復力を持っているね」
「ははっ、それは僕が今見ているスキルのおかげですよ。先生。僕は決めました。僕はこの幻覚をこれから受け入れます。
だって……このステータスという表示、少しの間、指示に従って強化してみたのですが、どう見てもステータスと自分本来の身体能力が確実に上がっているんです!」
「それはそれは、ステータスが君の力にどう関係しているであれ、幻覚は自分の物だとして受け止められるのなら、もはやそれは幻覚では無い。君の所有物だ。
どうやらもう治療する必要は無いようだな。よく頑張ったアルス君」
「はいっ!」
アルスは医者にステータスを受け止めたと説明すると、元気よく医者の発言に返事をして医務室を出て行った。
さて、自分の部屋に戻ったアルスだが、もう能力強化ミッションは終わってしまった。次に何をするのだろうか。できれば魔力や敏捷を集中して強化したい。
そう考えると、まるでアルスの考えている事が分かっているかのようにステータスの表示が変化する。
ー魔力成長ミッションⅠー
・焔の剣で10回敵を倒す(00/10)
ー敏捷成長ミッションⅠー
・10km走る(00/10)
必要な時以外魔法は発動しないと決意した矢先だ。ミッションに発動を強制されるとは思っていなかった。
もし発動するのなら人間相手ではなく、王国の外で彷徨う魔物が適任だろう。
王国の外は基本危険と言われており、その理由は魔物がいるから。
魔物とは何なのかと言われればそれは誰も知らない。アルスが生まれる前のずっと昔からいる存在である。
大昔には、魔物の王と人間の大戦争があったという話があるが、それはもう子供に読み聞かせる絵本となっている。
絵本の内容は、勇者と呼ばれた青年が、人間の大軍を率いて、魔物の軍を長年の苦戦を強いられながらも、見事に討ち果たすという話だ。
これをアルスはこの話が子供の頃から好きで、何度も母親に読み聞かせて貰い、今の夢が出来ている。
アルスは魔法の発動に少しの間躊躇うが、魔物相手ならという理由で、魔力成長ミッションに挑んだ。
基本、新兵である二等兵の外出は禁止されているが、個人的な理由なら許されている。但し、護衛などは一般の国民と同じく、お金を出さなければ雇うことは出来ない。
ただアルスは夢の為に全財産を叩いて入隊し、いずれ昇級すればお金も稼げると、当初は考えていた為、勿論護衛を雇うお金も無い。
ただ、一人だけ護衛してくれるだろう相手にアルスは心当たりがあった。
-ステータス-
名前:アルス
Lv:2
体力:56(+5)
筋力:59(+5)
魔力:18(+5)
敏捷:22(+5)
※( )は、スキル発動時の上昇値
スキル:
《諦めない心》Lv1
《訓練補助》Lv1
《勇者の闘志》Lv1
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