6話
アルスが唯一思い当たる護衛をしてくれるだろうその人とは、アルスの父親である。
アルスは十二歳の入隊の更に六年前。アルスが六歳の時に、母親から読み聞かされていた勇者の話に憧れを持ち、『勇者になりたい!』という夢の元、十二歳になるまで毎日の様に剣の稽古をしてもらい、入隊する時には強く背中を押してくれた。
アルスが騎士団に入隊するきっかけを作ってくれた張本人である。
ただし、入隊してから四年余りでアルスの成長が全く見込めないという上からの報告に、父はアルスの希望を失わせない為に騎士団の退団を考えるが、アルスの諦めない心に惹かれたのか、『お前の満足する結果まで応援する』と言って、アルスは退団せずに二十歳を迎えた。
そんな父親をアルスは信頼と尊敬をしており、もし外で戦う時が来るならきっと護衛をしてくれるだろうという考えに至った。
更に、そんなアルスの父親は、アルスが二十歳になった時点で既に騎士団に入り『曹長』まで上り詰めているのだ。
戦力としても十分に信頼が出来る。
アルスの父親の名前は、ファータ・ユースティア曹長。同じく、アルスのファミリーネームは、アルス・ユースティア二等兵ということになる。
勿論、曹長という階級まで上がった父を護衛として二等兵が簡単に呼べる筈も無く、階級という問題を差し置いては、忙しくて手に負えないという問題もある。
しかしあくまでも父と子の関係。子供の為にという私情を挟むのも何かと問題だが、ファータはアルスの為に仕事を捨てる事も出来るのだ。
いや、実際にファータは現在持っている仕事を放棄して、アルスの元へ向かった。
曹長という階級あろう者が私情に仕事を放棄など罰せられる筈のものだが、ファータはこれでも部下には優しく、上司とも仲が良いという関係にある為、多少の事は目を瞑ってもらっている。
そうしてアルスの呼び出しの元、ファータはアルスとセレクリッド王国、大門前に合流する。
「久しぶり! お父さん!」
アルスは合流するファータに元気よく挨拶をする。"久しぶり"とは、ファータがアルスの入隊に背中を押した八年前から、アルスが二十歳になるまで実は一度も会っていない。
その四年前にファータがアルスに最後の応援の言葉を残した時も、上司による伝言なのだ。
だがらアルスは父親に会うのは八年ぶりということになる。
「おぉ、アルス! 大きくなったなぁ!」
ファータはアルスとの再会に大きく腕を広げて喜ぶ。もう少しアルス小さければ抱きついていた所だが、もう二十歳になったアルスに抱きつくのは流石に無いと思い、腕を広げるだけにファータは思いとどまる。
「えへへ、今日は来てくれてありがとう! ちょっと一人じゃ心許ないから、お父さんなら来てくれるかなーっと思って」
「あぁ、父さんはアルスの為なら仕事を放棄してでも、何処へでも来るぞぉ!」
「あはは……流石だね。お母さんは元気にしてる? ごめん。なかなか昇級出来なくて会いに行く暇も無いんだ」
「心配するな。母さんなら全然元気だぞー。アルスの為に毎日、いつ帰ってきても良い様にアルスの部屋も隅々まで掃除しているんだからな!
それはそうと、今日は魔物を狩りに行くと聞いたんだが、大丈夫なのか?」
「うん! 父さん、僕は力を手に入れたんだ! どんな力かは今すぐ、魔物相手に見せるよ!」
「お、おう……」
アルスは父親と出会ったことの嬉しさにステータスという力を手に入れた事を包み隠さずに教えると、外に蔓延る魔物に向かって、ファータに手招きしながら突っ走る。
ただ力を手に入れたと言われれば、ファータは危険な薬を手に入れたのか? 何か不味い事でもしたのだろうか? と、今までのアルスの弱さを知っているからこそ心配になる。
しかし、魔物に向かってアルスが剣を構えた時、そんな悩みは一瞬にして掻き消される。
「行くよ! 焔の剣!」
アルスは目の前にいる狼型の魔物に向かって剣を構え、『焔の剣』を発動。すると、アルスの持つ剣の刀身から勢いよく炎を噴き出すと、熱く赤くなった剣へと変わる。
「でりゃあああっ!」
アルスは強く地面を踏み込み、突進。そのままのスピードで、剣を魔物に振り下ろす。
「キャアアアッ!!……ア」
剣の刃は魔物の体に減り込むと、再度炎を噴き出す。その炎はたちまち魔物を包み込み、剣は魔物を真っ二つに切断。魔物は悲痛な断末魔を上げながら、身体を包み込む炎を更に激しく燃え上がらせ、一瞬にして炭と化してしまった。
たったの一撃で魔物を葬ったその威力と、もし人間相手にこの技を与えたらどうなってしまうのか。
アルスは目の前で炭となった魔物の死骸に少なからず興奮しながらも、下手に使えばこれ以上のことが起きてしまうという恐怖に駆られる。
そんなアルスを後ろから見守っていたファータも驚く表情を見せることしか出来なかった。超常的な力で魔物を一撃で消し炭にするアルスにファータは、恐れというより感動する。
どんな形でさえ、アルスが"強くなった"という事実が嬉しくて堪らなかった。
「これが焔の剣……恐ろしい力だ……」
「アルス! 凄いじゃ無いか! 今の力は一体何なんだ!?」
「ええっとね。魔法という力なんだ……?」
「魔法か。ふむ……聞いたことの無い言葉だな」
「実は僕には目の前にステータスって言う自分の身体能力を数値にした物が見えるんだけど……その中に魔力っていう数値が有って、一定値に達すると魔法が使えるらしいんだ」
「魔力に魔法……なるほど。らしいということは、まだその、ステータスという物が何なのかは分からないということか?」
「いや、ある程度はだんだん理解してきている。先ず、このステータスが、ミッションを出してくるんだ。それでミッションを達成すると、僕の身体能力が上がったり、今の焔の剣みたいな技が手に入る。
もちろん、これで上げた身体能力は、僕の実際の身体能力に反映されるんだ」
アルスは今までに知ったステータスに対する知識を伝えると、ファータは、ふむふむと興味深く頷きながら聞く。
「つまり、何れお父さんとの腕相撲にも勝てるってことだよ!」
「ほうほう……む? アルス。それは聞き捨てならないな? 今日の用事が終わったら、久しぶりに腕相撲をやろうじゃ無いか」
「良いよ。じゃあ、あと魔物を九体。今の技で倒すから、お父さんは後ろで見ていて」
「おう! 危なくなったらいつでも助けるからな!」
そうして、アルスは父のファータを後ろに残りを魔物を次々と倒していく。
──────────────────
ー魔力成長ミッションⅠー
・焔の剣で10回敵を倒す 達成
達成報酬:
・魔力+5
──────────────────
規定の魔物を狩り終え、スッキリした表情で後ろを振り向きながらファータに完了報告するアルス。
ただアルスが十体の魔物を倒し終えるまでが思いの外早く、ファータはまだ続けても良いと言う。
「よし、終わったよ父さん」
「速いな。もう十体倒したのか! まだ陽は全然落ちていないが、このまま続けても良いぞ? その、ステータスだったろ? やり続ければどんどんミッションの条件が厳しくなっていくそうじゃ無いか」
「ほんと!? じゃあ、引き続き警護お願いしようかなぁー」
「任せた!」
それから数時間。陽は沈み、空は夕焼けになった所でそろそろと言ってファータはアルスを止め、今日の魔物狩りを終わらせる。
またアルスはその今日で、三つ目のミッションまで終わらせた。
──────────────────
ー魔力成長ミッションⅡー
・焔の剣で100回敵を倒す 達成
達成報酬:
・魔力+10
ー魔力成長ミッションⅢー
焔の剣で1000回敵を倒す 達成
達成報酬:
魔力+15
──────────────────
ー敏捷成長ミッションⅠー
10km走る 達成
達成報酬:
・敏捷+10
──────────────────
スキルレベルアップ条件を達しました。
条件:魔力が50を超える(スキル補正値を含む)
報酬:焔の剣Lv1→Lv2
(威力+範囲アップ)
──────────────────
「お、やった! 父さんのお陰で今の技の威力と範囲が上がったよ!」
「い、今の技の威力が更に上がるのか……さっきから魔物を一撃で倒しているというのに……まぁ、俺のお陰が強くなったのなら良いだろう! よし帰ったら腕相撲する約束だったな!」
こうしてアルスは、父ファータの警護の元で成長ミッションを進ませ、王国に帰った後、ファータと十数年ぶりの腕相撲をした。
結果、アルスの現在筋力『56』でさえも、ファータに歯が立つことさえ無かった。これにより、アルスは筋力を50まで上げても父親の腕相撲には勝てない。という一つの基準を立てた。
──────────────────
-ステータス-
名前:アルス
Lv:2
体力:56(+5)
筋力:59(+5)
魔力:48(+5)
敏捷:33(+5)
※( )は、スキル発動時の上昇値
魔法:
・焔の剣Lv2
スキル:
《諦めない心》Lv1
《訓練補助》Lv1
《勇者の闘志》Lv1
──────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます