2話
「せいっ! やぁ! はぁ!!」
ステータスのスキルのおかげで大怪我から復帰したアルス。ただ未だにステータスの事を幻覚だと思っており、到底あり得ないと思える能力強化を無視して素振り訓練に励んでいた。
しかしそんな無視も関係なく素振りをし続けるアルスの視界に映る文面は変化する。
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-能力強化ミッションⅠ-
条件を達成しました。
素振り100回(100/100)
能力が強化されます。
体力+1
筋力+1
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-ステータス-
名前:アルス
Lv:1
体力:3
筋力:4
魔力:0
敏捷:1
スキル:
《諦めない心》Lv1
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「能力が強化されたのか……? でも、実感がなくちゃ全く意味が無いな……いやいや! 僕はこんな得体の知れない物に頼る訳には行かない! あの人がわざわざ用意してくれた部屋だ。有効的に活用しないと!」
ステータスが強化されたのは見て分かるが、『+1』がどれほどの物なのか試さなくては、どう強化されたのは全く分からない。
だが、幻覚の力に頼るわけにもいかない。それでは八年間の努力が消えてしまう。
だけど、もしかしたら八年間の努力の結晶がこうしてステータスとして生まれたのか?
アルスは常に視界に映るステータスが目障りだと感じながらもだんだんと興味を持ち、されど楽して強くなるのはアルスのどんな困難でも諦めなかった信念を裏切ることだと葛藤していた。
ただ今はそんな雑念を振り払って素振りを続ける。
するとまた、ステータス表示に変化が表れた。
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-能力強化ミッションⅡ-
以下の条件を達成すると能力が強化されます。
素振り1000回(0000/1000)
達成報酬:
体力+2
筋力+2
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「条件が増えた? ……。もういい。訓練の邪魔だ。消えてくれ……」
とにかく今は訓練だ。アルスは、どれくらい、いつまでとは決めた事は無く。一日中、永遠と訓練をする事で凡ゆる雑念を払っていた。
なので内容の変化はとりあえず無視し、頭の中で消えてくれと念じると、ステータス表示は自動的にアルスの視界の隅っこに縮小した。
「僕は絶対に強くなるんだ……! 身体を追い詰めて、追い詰めて! うおおぉ!」
それから数時間後、アルスのいる物置き部屋にある小さな窓から微かに差し込む陽の光は既に暗くなり、外の様子がはっきりと見える大きな窓はないが、それだけで外はもう夜だと分かる。
勿論、しっかり休憩時間も取っていたが、本格的に素振りを始めてからアルスはステータスには目もくれなかった。
ただそんなに真剣に訓練に励んでいる中でもステータスの『能力強化ミッション』は着々と進んでいた。
-能力強化ミッションⅡ-
素振り1000回 達成
体力+2
筋力+2
-能力強化ミッションⅢ-
素振り10,000回 達成
体力+3
筋力+3
-能力強化ミッションⅣ-
素振り10万回 達成
体力+4
筋力+4
「はぁー……今日はこのくらいかな……夜更かししてもいい事は無い……あー、そういえばこの部屋片付けないと……」
一日中訓練をして、そろそろ寝ようと考えるアルスだが、物置き部屋は未だに何一つ片付けていないことを思い出す。
今片付けを始めると、本来寝る時間である此処の騎士の就寝時間は超えてしまうが、片付けなければまともに寝る事は出来ない。
もっと先に片付けておくべきだった。そう後悔しながら渋々アルスは部屋の片付けを始めた。
物置き部屋は多種多様の訓練用の武器や防具と道具、今は使われていない大道具などがあり、アルスはこれを床に少しでもスペースが空くように整理整頓をしていく。
そして就寝時間を大きく過ぎて時間は深夜。ようやく全ての道具の整理整頓が終わり、アルスは冷たい床の上で寝そべり、目を瞑った。
翌日、起きたのは昼過ぎだった。昨日はいつもと違う時間で寝たからであろう。
アルスは体を床から起こす前に、視界に映るステータスをふと見上げる。
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-ステータス-
名前:アルス
Lv:1
体力:12
筋力:13
魔力:0
敏捷:1
スキル:
《諦めない心》Lv1
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アルスその変化したステータスに少し驚く。最初は一桁の数字が縦に並ぶだけだったのに、今では体力と筋力が10以上になっている。昨日の訓練のおかげだろうか。
ただいくらステータスが強化されたとは言え、何度も見ても実感が湧かないことにアルスは、このステータス表示を完全に信じる訳では無いが、どうしても試したくなった。
何もない空振りでは分からない。自分を大怪我させたあの男の視界に映ってしまうのは最早仕方が無い。いつもの訓練場にある木人形でなければこの心の内にある"試したい"というモヤモヤは消えない。
あの男はアルスに声も視界にも入れたく無いと言ったのだ。わざわざ許可を取ろうとするのは野暮なことだろう。
そう考えたアルスは徐に訓練場へと赴いた。
物置き部屋を出て訓練場に入ると、当然の如く男の視界に映る。男はアルスに聞こえるように大きく舌打ちをする。
「ッチ……おい、てめぇ。俺の言った事忘れたのか?」
視界に映って声までかけられてしまうとは予想外だった。ただ無視すれば更に相手を激高させてしまう。アルスは男に申し訳ないと思いながら許可を取ろうとする。
「本当に済まないと思っている。だが、どうか一時間だけでも良い。此処で打たせてくれないだろうか」
「はっ、まさか訓練の結果を試したいとでも思ったのか? いくらお前が努力しても無駄なんだよ。それは同期である俺が知っている。
最初は正義感の強え変なやつだとは思っていたが、まさか口だけの雑魚だとは思わなかったぜ。ま、一時間だけなら許してやるよ。
くっせぇ物置き部屋で一人で訓練していたからな。さぞ寂しかったんだろうなぁ?」
そう、この男はアルスの同期なのである。アルスが十二歳の時に入隊した時に、その場に新兵としていた人間。
男の言っているとおり、アルスがこの八年間何をしてきたのか。全て知っているからこそ、努力しても無駄という言葉が吐ける。
「ありがとう」
そうしてアルスは訓練場の入り口に置いてある誰でも使える訓練用の木剣を持ち、木人形の前に立つと、木剣をしっかり握り込み、息を一つ吐く。
そして、大きな声を出して一撃。木剣を思いっきり振り下ろす。
「はぁっ!!」
すると木と木がぶつかり合う軽快な気持ちのいい音が一発訓練場に響き、しっかり固定しているはずの木人形は暫く小刻みに揺れ続ける。
この結果にアルスは目を見開く。今まではいくら木人形を叩いても、コンコンと軽い音しかならなかったのに、ここまで良い音は初めて聞いた。
アルスはこの結果にまさかと思い、ふとステータスに視線を移す。
すると表示に変化が。ミッション表示だ。その内容は、こう書かれていた。
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-スキル獲得ミッション-(Lv1)
以下の条件を達すると新たなスキルを獲得出来ます。
木人形を10000回攻撃(00000/10000)
達成報酬:
スキル『訓練補助』
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能力強化ミッションでは無く、今回はスキル獲得ミッションとあった。新たなスキルとは、『諦めない心』と新しいスキルが得られるということだろうか。
新たなスキルの名前は『訓練補助』。初めてスキルを見た時のように、スキルの文字を見つめても詳細は表示されなかった。恐らく獲得してからでしか分からないのだろう。
少し気になりはするが、今の木人形を叩いた時の衝撃は本当にステータスのおかげなのかは分からない。もっと訓練をしてもう一度試し、比較しないと分からない。
だから訓練は続行するが、アルスはスキルの獲得自体は興味は然程無かった。
視線を木人形へ戻し、訓練を再開した。
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