第17話 倒すべき敵


 少年は戦闘傀儡と対峙する。車で逃した赤ちゃんの事は一旦忘れて目の前の敵に集中する。

 戦闘傀儡の胴体はポールの直撃で大きく凹んでいる。中央制御系がある部分を確実に破壊したはずだ。だけどこうして動いてる。


「移動中の車に命令する。そこから指定座標にセンサーポールを運搬しろ」


 少年はボートで使った手をもう一度試す。間合いを詰めずに時間を稼ぐ。構えてみたはいいけどコンバットナイフなんて役に立たない。ナイフ如きで切れるケーブルもないし、軍用モデルの傀儡は緊急停止用のアナログのスイッチも存在しない。敵に知られたら弱点でしかないから。


『了解しました。指定座標に運搬します』


 車に乗っていた汎用傀儡が綺麗なフォームでポールを投擲した。


(よし、来た)


 戦闘傀儡に目掛けてポールが飛来する。直撃コースだ。


「嘘だろ」


(バスっ!)


 戦闘傀儡は飛んで来たポールを右腕で掴みやがった。しかも電気ショックの部分は避けている。

 敵に武器を与えてしまった。くるくると綺麗に回転させて槍の様に構えてみせた。


「化け物かよ。おい、もう一本寄越してくれ。僕も槍で戦う」


(バシュ!)


 ポールが砂浜に突き刺さる。少年の近くに槍が届いた。


「こっちがナイフで自分は槍とかずるいだろ。さぁ勝負だ」


 両手で構えて大きく踏み込む。戦闘傀儡の肩を狙う。相手はそれを払う。お互い剣先がぶつかる度にビリビリと電気ショックの火花が飛ぶ。


(普通の戦闘傀儡と動きが全然違う。僕だって汎用傀儡相手に格闘術はやってたのに)


 日本列島でサバイバル生活をしている少年だが実は、さほど体を鍛える必要はない。車移動だし便利な道具はたくさんあるからだ。だけどトレーニングはちゃんとしている。汎用傀儡相手にボクシングやったりCQCをやったりする動画はそれなりに再生数が稼げた。女子リスナーは少し減った。


 確実に刺突を繰り出してくる。


(こいつ、まさか人間が入ってるんじゃないか。胴体の中央制御系は確実に破壊している。だとしたら……)


 戦闘傀儡は人間の神経系を模倣して作られている。それなのに中央制御系が胴体にあるのは、排熱の制約があるからだ。複雑な処理のせいでパソコンとは比にならない熱を戦闘傀儡は放つ。冷却装置と合わせる為にも胴体に中央制御系を置く必要があった。


(やっぱり、この動き。人間が直接操作している!)


 では傀儡の頭は何の為にあるのか。それは憑依操作アバターモードのためだ。専用のデバイスを使う事で戦闘傀儡を自分の体のように使う事ができる。その時頭がないと強い違和感が生じてしまう。だから頭がついている。

 元々は高い技術を持った人がわざわざ現地に行かずとも作業を熟すために開発された機能だ。少年は憑依操作に必要なデバイスは持っていないから経験はない。


 槍を持った傀儡は確実な攻撃を繰り出してくる。憑依している人間の技量がかなり高い様だ。


(くそダメか……)


 その時、一瞬攻撃を緩めて戦闘傀儡が一言小さく放った。




『大きくなったな』


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