第18話 『大きくなったな』
槍を手に格闘する少年と憑依された戦闘傀儡。技量の差と機械の身体に少年はじりじりと追い詰められていった。そんな中、戦闘傀儡が放った一言。
『大きくなったな』
どう言う意味だろう。少年は混乱する。
戦闘傀儡のスピーカーはわざと性能が低いものを搭載している。シンギュラリティ条約があるからだ。戦闘傀儡が生身の人間に対して声で命乞いをしてその隙に攻撃すると言う戦術を禁止する為だ。機械の命乞いによって生身の人間が死ぬ事は、例え敵兵であっても倫理的に問題があるとされた。
だからその声はとても機械的だ。
戦闘傀儡から出た声は冷たく人間らしさが全くないものだ。だけど『大きくなったな』その一言はとても慈愛に満ちている様に思えた。
『用意した課題はほぼパーフェクトだ。炎上する輸送船の対処、必要な資源の収集、何度かの襲撃、それぞれ優先度をつけてよくやったな』
「課題ってなんだよ。あんたは誰なんだ!?」
憑依操作された戦闘傀儡は何処かと通信してるはずだ。そこに憑依デバイスをつけた人間がいる。デバイスはVR装置みたいな形をしている。すっぽりとヘルメットの様に被り横になって戦闘傀儡に憑依する。
この傀儡に憑依した人間がどこかいる。
『もう少し話していたいがこの身体のバッテリーがもうないみたいだな。元気そうでよかったよ。じゃあまたな』
「おい、ふざけんな。質問に答えろ!」
少年は一撃を加えようと大きく一歩踏み出す。
しかし、その前に戦闘傀儡は糸が切れた様に力を抜いて砂浜に倒れた。完全に停止している。憑依が解けるだけでさっきまでの人間らしい動きが嘘の様に、その身体はただの物へと変わった。
自分の事を知っているみたいだった。でも思い当たらない。それに課題ってなんだ。輸送船の炎上は事故じゃなかったのか?少年の頭の中に幾つもの疑問が浮かぶ。戦闘傀儡の抜け殻が倒れる砂浜にただひとり立ち尽くす。折れた風車が海に何本も突き刺さっていてその間を夕陽が沈んでいく。
「あ!赤ちゃんと合流しないと!」
避難させていた赤ちゃんの事を思い出した。車に連絡する。
「脅威はなくなった。戻ってこい」
『了解しました』
砂浜に車が降りて来る。でかい犬みたいだ。声で命じれば無人で走る車。この車にはこの日本列島で何度も助けられた。誰もいない日本で……
少年は真っ過ぐ助手席に向かって赤ちゃんを確認する。
「大丈夫?怪我はない?怖かったよね。ごめんね」
「んなぁ〜ぱう」
上から覗き込んでくる少年をみて赤ちゃんがにこにこと笑う。わけのわからない事ばかりだけど取り敢えずもう大丈夫みたいだ。少し休みたい。
少年は車を出発させた。ばたばたするけど、動画配信者としても仕事をしないといけない。
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