第14話 傀儡の真価

 戦闘傀儡を乗せたボートが後から迫って来る。4体全てがライフルで武装している。関節部分がシートで守られてるのは海兵モデルだからだろう。


「ダメだ、このままだと追い付かれる」


 食料とマテリアルでいっぱいのボートは重い、そのせいでスピードが出ない。少年のボートがアザラシだとすると追って来るのはシャチだ。


「なんだよ。もう!食料なんて食う人がいないんだから貰っても良いじゃないか。僕以外に誰かいるわけでもないし……?誰もいないのに何で戦闘傀儡は動いてるんだ?」


 傀儡シリーズは労働力の激減に直面した日本が開発した人型ロボットだ。人口が減少に転じる遥か以前に、日本は技術先進国としての地位を完全に失っており人型ロボットの開発力は皆無だった。そこで米国の先進企業『ボストンダイアローグ』を買収、国営化した。それで開発されたのが『傀儡シリーズ』だ。

 しかしそれでも根本的な労働力の不足は解決しなかった。理由は


「この傀儡たちは誰が整備してるんだ?」


 理由は傀儡の整備システムにあった。傀儡を一体ずっと使い続けるには1人の人間が必要とされる。8体使うなら2人、16体使うなら4人、複雑で高度な技術の結晶である傀儡は、その整備に高度な専門エンジニアを必要とする。それを受けれなければ傀儡は数ヶ月ともたない。


 そして日本で文明を維持するのに必要な傀儡の数が試算された。1600万体だ。21世紀初頭から、6分の1までに数を減らした日本人に400万人分の労働力をただ傀儡を動かすだけに割く余裕はなかった。


「今はそんなのどうでも良いや、なんとかしないと。傀儡には傀儡をぶつけるか」


 少年は海岸に車と一緒に置いてる汎用傀儡を起動させる。海岸からライフルであのボートを撃たせようと考えた。傀儡にライフルで攻撃する様に命令する。


『その命令は実行できません。本機による火器の使用は禁止されています。傀儡武装ライセンスを取得してからご確認ください』


「ああ、そうだった。あいつ武器を使えないんだった!どうしよう」


 どの傀儡も人間とほぼ同じ手をしているからライフルを撃つ事はできる。だけどソフト側で禁止されている。禁止コードがプログラムされているから。


 そうしなければ『個人が兵力を保有する』事が可能になるからだ。過去に職場でパワハラを受けていた若い警察官が、警察用の戦闘傀儡をハッキング、たったひとりの意志で、30体の戦闘傀儡を動員してその警察署を壊滅させた事例があった。

 この事件は警察の管理体制の杜撰さとモラルの低さを、世間に晒し大きな問題になった。なんかの資料で読んだ気がする。


「そうだ!これから指定する座標にセンサーポールを電気ショックモードにして『運搬』せよ」


『了解しました。センサーポールを電気ショックモードにして指定座標に運搬します』


 少年の命令を受けてポールを4本取り出す。スイッチを押すと『シィキン!』と綺麗に伸びる。伸ばしたポールを砂浜に突き刺してまた一本伸ばすを繰り返す。4本できたら、傀儡は両手で構える。助走のために少し後に歩く。


 投げ槍の姿勢をとったら思いっきりポールを海に向かってぶん投げる。少年の頭上をビリビリと光るポールが過ぎていった。


(ドスン!)


 ポールは追って来る戦闘傀儡の一体に命中、一本2キロの棒は加速の力を借りて凄まじい威力を発揮した。胴体を貫徹したポールは傀儡に突き刺さった状態で電気ショックを放つ!ボートのモーターを操作する奴に命中した。


「よし、次だ。続けて指定座標に運搬しろ」


『了解しました』

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