第13話 思わぬ遭遇

 どこか懐かしい美術室をでた。自分の記憶の中にある場所はここではない、だけど一歩近づけた気がする。でも今は配信を頑張って、この日本で生きていくことに集中しようと決めた。彼には守るべき子がいるのだから。自分の事よりも赤ちゃんの事を。


「じゃあ帰ろうか。待たせてごめんね」


「バブ!」


 少年は廊下を歩いて行く。くる時にはなかった荷物を背負って、自分が何かを背負っていると言う感覚を抱きながら。だけどここにはもう用はない。帰ろう。


「なんだ?あれ……」


 この施設は電力の節約の為にセンサーが感知したところだけに照明が付くようになっている。だから真っ直ぐな廊下の先は真っ暗だ。その先に人影のようなものが見えた。だけど関節の数と位置が人間と違う、戦闘傀儡だ!こっちへ向かってくる。戦闘傀儡が走り出したと同時にその動きで照明がついて行く。


「やばい!分からないけど逃げないとやばい」


 少年はホルスターからハンドガンを抜いてエレベーターへと急ぐ。ベビーカーのタイヤが急加速したせいでタイヤと廊下が擦れる音が響く。


(キュゥーウィーン!)


 その後を照明をバン!バン!とつけながら戦闘傀儡が追いかけてくる。


 エレベーターの前までついた。先にベビーカーを乗せる。もう少年と戦闘傀儡の照明は全て付いている。すぐ先まで来てる。ハンドガンを構えて発砲、発砲、発砲。全然当たらない。ライフルを持って来なかった事を後悔した。エレベーターの扉が閉まっていく間も打ち続ける。30センチ、2センチ、もうすぐ閉まる。撃ち続ける。胴体に3発くらい当てた筈だ。でも効いていない。


『ドン!』


 最後の1発でエレベーターの扉を撃ってしまった。だけど無事エレベーターは動き始めた。扉が大きく凹んでいる。


「はは、扉を撃っちゃったよ笑。怖くてさ。でも大丈夫……」


『バコン!』


 逃げ切った戦闘傀儡がエレベーターの扉を蹴り上げたみたいだ。振動と音が届いてきた。少年は納めかけたハンドガンを慌てて構え直した。


「……大丈夫、行くよ」


 2人を乗せたエレベーターは上へと登って行く。赤ちゃんと同じベビーカーはあるし、なんか見た事がある美術室はあるし、さらには戦闘傀儡に追いかけられた。さっさとここを出よう。


「ボートが荷物でいっぱいだね笑。いや?このマテリアルはバイクにいるんだから……」


「ばーぶ!」


 ボートのモーターをかける。メガフロートを見上げるとやっぱりここは不気味だ。もう来ないけど。


 くる時もそうだったけど、波も風もなくて静かだ。赤ちゃんも機嫌が良い。折れた風力発電の翼のところまできて、後方から大きなモーター音が聞こえてきた。戦闘傀儡を乗せた軍用ボートだ!4体乗ってる。海兵モデルだ。


「またかよ!」


 少年と赤ちゃんに向かって大型の真っ黒なゴムボートが迫ってくる。

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