第10話 近づく過去


 少年はマップを見ながら六角形のメガフロートの中心にある入り口へと向かう。入り口の前に立つと自動で扉が開いた。潮風が入ると建物が劣化するから硬く閉じられているはずだ。それが開いたと言うことは僕の姿を来訪者だと認識する人工知能がまだ生きているんだろう。


 中に入ると真っ白な壁と照明しかない空間に四機エレベーターが並んでいた。一機は故障中、二機は使用禁止とサインが出てる。少年と赤ちゃんは唯一稼働してるエレベーターへと乗り込んだ。少年が操作する前にエレベーターは下へと静かに降り始めた。


『こんにちは。本日は当施設への来訪ありがとうございます。目的地を指定していただければナビを開始いたします』


 柔和な女性の合成音声でナビが始まった。その演出に反してどこか不気味で冷たく感じる。食料貯蔵庫に行きたいと言えばなんの確認もなくエレベーターが動き始めた。


『本施設は元々関西都市圏の壊滅に伴う、生存可能領域の縮小を解決するために建設されました。しかし残念ながら、悪化する情勢に寄って目標は達成できませんでした。その後本施設は、次世代教育を志す教育機関へと姿を変えたのです』


(教育期間ってなんだ?学校の事か?)


 確か何かで読んだことがある。エクソダス計画のほかに洋上メガフロートに日本人を移住させる計画があったらしい。JAMSTECと産総研って組織が主体でやっていたらしい。ナビが言うには失敗したんだな


 アナウンスが終わると同時にエレベーターが止まった。エレベータを降りると天井の照明が真っ直ぐ伸びる様についていく。長い廊下だ。両側はガラス張りになっていて中が見える。


「これは……赤ちゃんのベビーカー?」


 ガラスの向こう側の部屋にはずらっと保育器が並んでいる。赤ちゃんが乗ってるベビーカーよりもだいぶ大きいけど同じシリーズだとわかる。形がとても似ている。赤ちゃんが入っているはずの丸いガラスの部分は真っ黒になっている。

 少年のベビーカーも赤ちゃんが、太陽の光を直接見ないようにガラスの透明度が変化する機能がある。やはり同じシリーズなんだろう。それにしても真っ黒な保育器が並ぶこの雰囲気はとても不気味だ。20機近く同じ装置が並んでいる。考えてみれば育児を自動化するベビーカーなんていきなり完成するわけがない。何度も新型を出していったはずだ。


「似ている。赤ちゃんが今乗ってるベビーカーはここで開発されていたのか?でも君は外国から来たんだよね?」


『赤ちゃんが起きました』


 赤ちゃんがベビーカーに一緒に入れて置いたぬいぐるみを、もみもみしている。ぱっちり起きちゃったみたいだ。


「おはよう、よく寝てたね。食料を回収したらすぐに帰れるからね。大丈夫だよ」


「あーう?」


 ここは一体なんだんだろう?

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