第11話 2人の初喧嘩 

 少年は早足で保育器の並ぶ廊下を歩いていく。スマホを見ながら何度か角を曲がる。途中にはいくつか部屋があった。ある部屋は壁一面に空と雲の壁紙が貼ってあって床はカラフルなカーペットが敷かれていた。なんだか不気味だったから無視して通りすぎていく。少し歩くと『備蓄庫』に着いた。

 なんだかドアが閉まってしまうのが怖くて、近くにあった箱をドアに挟んでおく。


「よし見つかったよ。保存食もあるしミルクもある。良かった」


 備蓄庫には地味な高い棚が沢山並んであって食料がぎっしり並んでいた。

 奥まで並ぶ棚から少年は好きなメニューをごっそり取っていく。鯖の味噌煮、ラーメン、唐揚げ、ハンバーグ、野菜ジュース。どれも真空パックされてて長期保存用の物ばかりだ。元は宇宙食だったみたい。JAXAって書いてある。パスタの大袋も取った。


 赤ちゃんのミルクは水で薄めるタイプの物だった。てっきり粉末を想像してたけど、ボトルに入っている。これは必要量は3回くらい確認した。

 そして赤ちゃんの乗ってるベビーカーにつけてあった荷台に移す。赤ちゃんだって当然今よりもこれから大きくなるのだから、その分の性能がこのベビーカーにはあるはずだ。だったら荷物の重量があっても大丈夫だろうと思った。


「ぶーうー〜」


「ごめんよ笑 でもこれで最後だから、後は僕が背負うよ」


 調子に乗ってどんどん載せていったら赤ちゃんが機嫌を悪くした。「買い物カートじゃないぞ」とでも言いただけだ。汎用傀儡を連れて来た方がよかったかもしれない。


「あ!3Dプリンター用のマテリアルだ。しかもかなり高品質の!もらって行こう」


 少年は液体の入ったタンクを棚から取る。3Dプリンターで物を作る時に必要な材料だ。爆発した無人輸送船からモーターと制御基盤は回収できていたから、このマテリアルでバイクが印刷できるかもしれない。


「ダメだ。重すぎる。待てよ、赤ちゃんのミルクはいるけど僕の食料はこんなにいらないのでは?バイク、食料、バイク……」


「バブ!うー!」


「いやだってね?バイク欲しいじゃん。でもここにもう一回来るのは嫌だ。だから持って帰る食料を少し減らそうかなと思って」


実際、飢えるほど困っているわけではない。だが備蓄量は確かに足りない。


「うぅ〜!」


「大丈夫だって、いける、いける。我慢して来たんだしちょっとくらい良い事ないとね」


 少年は3Dプリンター用マテリアルを、正確に言うとバイクを選んだ。

 確かに赤ちゃんが来た事によって車に積まなくていけない物資が増えた。バイクは無人で走らせる事も可能だから、荷物だけを積んで車の後ろをついて来させれば便利だと少年は企んだ。決して、ただバイクが欲しいわけではない。なんか赤ちゃんからの視線が痛い気がする。気のせいのはず。


「よしじゃあ帰ろう!さぁ帰ろう!」


 少年は大荷物を背負って立ち上がる。その後を食料を積んだせいで、でっかくなったベビーカーがついていく。備蓄庫を出て角を曲がる。もう帰るだけだと思った。しかし。照明の付いていない奥の空間。


「ごめん、あの部屋なんか見たことある気がする……」


「バ〜ぶーぶー!!」


 少年は何かに突き動かれるように歩いていく。

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