第9話 食料を求めて
嵐の夜を越して2人はサッカースタジアムの廃墟から出発した。
「皆さん、昨日はごめんなさい。赤ちゃんのコンディションが良くなかったみたいです。これから2人で色々な所を行きたいと思います」
少年は車を走らせながら配信をしている。画面の端には赤ちゃんの顔が映るようにした。今はスピ〜スピ〜と静かに寝てる。赤ちゃんはまるで天使と怪獣が裏表になったみたいな存在だ。どちらも大変だけど愛おしいと思っている。
コメントは「よろしく〜」「赤ちゃんのコンディション笑」「パパの顔だ」と流れいく。高度に訓練されたリスナー達は余計な詮索はしない。気になりはするけど。
「それで唐突なんだけどごめんなさい。今日から3日ほど配信をお休みします。赤ちゃんとの大事な用事があるのでごめんなさい〜」
まさか食料を積んだ輸送船が爆発して、受け取るはずの食料がなくなったとは言えない。少年は少し罪悪感を覚えた。できる事ならリスナーさんとはオープンな関係でいたいと思っている。だけど輸送船の企業とはスポンサー契約があるので仕方ない。後日、説明させていただきますって連絡が来たけど未だにないのは少し不満だった。
『赤ちゃんが起きました』
「あう!わー!」
短い腕をベビーカーの中でふりふりしてる。可愛い。自分が可愛い事を分かってやってる節すらある気がする。
「じゃあ皆さん、また次回の配信で〜ご視聴ありがとうございましたー」
目的の海岸に着いた。今度は普通の砂浜だ。遠目に巨大な建造物が海の上に浮かんでいる。今からあそこにいく。
「最近なんか海ばっか来てる気がするなぁ。他の国の事を海外って言うの日本人の世界観を良く表してるなと思わない?今日は関係ないけどね」
「バ〜ぶ わー」
「笑、じゃあ準備しようか。君にとっては初めて船旅かな。僕の所に来る前の事は知れないけど多分初めてだよね」
少年は車からゴムボートを取り出して膨らませる。完成したらエンジンを取り付けて、荷物を積んでいく。パドルやらバックやらetc。それでも食料をゲットする為に行くのだから極力軽くする。目的を忘れてはいけない。食料の為に行くんだ。いつものライフルは置いて行ってハンドガンだけを装備した。ライフジャケットを着て準備完了だ。
「よーし!行くぞ〜!」
少年は海に向かってボートを押す。赤ちゃんも一緒だ。
「あう!」
エンジンをかけてボートは進み始めた。波が静かでとても気持ちいい。
海には洋上風力発電の風車が何機かある。折れた羽が海底に突き刺さっているのか、まるで大きな鯨の骨が突き出してる様に見える。柱の根本までボートを近づけると結構高い。近くによると機械の軋む音が聞こえた。不気味な音だ。
『ギィーーン、ギィーーン』
「ほら風力発電の柱だよ。高いね〜。回らないけどね」
「バブ〜」
それからしばらくボートを進めると
「見えてきたよ。あそこに食料がはずだよ。前から行って見たかったんだよね。なんでか配信許可は出なかったんだけど」
少年が指差すそれは海の上に浮く巨大な人工島
メガフロートだった。警告灯が点滅しているのが見える。
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