第8話 赤ちゃん 鮮烈なデビュー

 夜の2時。鳴り響く雷で飛び起きた少年は、テントが大粒の雨と暴風でバタバタと揺れている事に気づいた。テントの隙間から外を見ると瞬く間に雨が入り込んできた。外は土砂降りの雨でほとんど視界はなく、微かにセンサーポールの赤灯が見えただけだ。


「まぁとりあえずもう一回寝よう」


 少年は入り込んだ水を拭いてもう一回寝る事にする。テントで越すには少し怖い夜だった。赤ちゃんの寝顔を見るととても癒される。慣れたと思っていたけどこう言う夜はやはり怖い。


『赤ちゃんが起きました』


 朝、揺り籠アプリの通知で起きた。ぐっすり寝れたみたいで機嫌が良さそうだ。ベビーカーの中でニマニマしてる。


「おはよう〜よく寝れたかな」


「あうあう!」


 天気アプリをみようと思ったらSNSにとんでもない数の通知が来てる事に気がついた。


「な、なんだこれ。あ!哺乳瓶のやつか!」


「バブ?」


「君をみんなに紹介しようか〜」


 少年はスマホを三脚につけて配信の準備を始める。良い機材は車の中に置いてきてしまったから仕方ない。人工衛星との通信を確認する。雨のせいで少し悪いけど問題ない範囲だ。

 赤ちゃんをベビーカーから抱き上げて膝の上に置く。本当にフニフニしてて不安になる。あぐらを組み直して赤ちゃんにフィットする。

 配信開始っと。


「はい皆さんこんにちは〜今日は大事なお知らせがありま…」


「バブ!あーう!」

 膝の上で赤ちゃんがジタバタする。コメント欄は「赤ちゃん?」「なんで?」


「可愛い〜」っとすごい勢いで流れていく。


「ちょっと落ち着いてよ、さっきまで機嫌良かったじゃん、あ、皆さん…」


「んんああ〜バブ!」


 少年の膝の上で暴れる赤ちゃん。小さい怪獣みたいだ。


「あ、ダメだって、と言う事で今日から2人で配信していこうと思います。また改めて赤ちゃんの事は紹介しますね〜」


 赤ちゃんが暴れるので配信は中断する事になった。「訳がわからなすぎる」「超可愛い」「お父さんの顔してたなぁ〜」とコメントが流れていく。


「皆さんごめんなさい。ではまた次回の配信で!」


 疲れた。まずは赤ちゃんをカメラに慣らすところから始めないといけない。まぁ紹介すると言ってもリスナーさんには『財団』の事は言えないんだけど。


 汎用傀儡に手伝ってもらいながら撤収作業をする。深くまで打ち込んだセンサーポールがなかなか大変だった。その間に赤ちゃんには自動でミルクとゲップをしてもらう。多分僕はこのベビーカーがなければ今頃倒れてる。


「よし、じゃあ出発だ。車じゃ行けないからまだ先だけどね」


「あう!」


 スマホに映ってる海の上のポイント、そこに一番近い海岸を目指して走り出す。キャンプしてる間は気が付かなかったけど2人は崩壊したサッカースタジアムの廃墟にテントを貼っていたみたいだ。大きく抉れた客席が見える。昔は綺麗な芝生があって沢山の人がサッカーを見ていたんだろうなと思う。

 少年は誰かと遊んだことがない、誰かとスポーツをした事がない。でも今は一人じゃない。

 進んで行こう一緒に。とりあえず食料だ。

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