シャウトダンス・シャットダンス
エリー.ファー
シャウトダンス・シャットダンス
その日は雨が降っていて。闇夜に映える血が、それは美しいくらいに飛び散っていた。
夢のようであった。いや、正夢というべきかもしれない。いずれ、本当かどうかを試すには、自分の命を犠牲にしなければならないわけで、そう考えれば今この瞬間は私そのものだった。
時計である。
時間である。
いずれ、過ぎ去ってしまわないといけない命のきらめきである。
殺されたのだ。
誰が。もちろん、私である。
私も殺してきたのだ。その報いであると言えるかもしれない。
大切に抱えてきた体の一つ一つから魂が抜けていくような感覚になる。力が入らないと表現されることが多いそうだが、そんなものは些末だ。命や心、魂や気持ち、そういうもので表現するべきものであると思えた。
近くをウズラの卵が転がっていた。潰してしまおうと思ったが手が届くことはなかった。そのまま坂を下って闇に消えてしまう。
下り坂の町。
キャンゼル。
私が生まれ育った思い出の町である。ご褒美に買ってもらっていたクリームパン。味を思い出す。涙が出ない。そうか、思い出と呼べる代物だと思っていたのは私だけのようだ。私は余り私のことを理解できていないばかりか、私を無視したりする。困ったものだ。
私は今、どこにいるのか。
不安になる。
雨に打たれて、下り坂で、クリームパンのことを考える私。
今日一日のことすら思い出せない。
闇が来るのだ。
私も知らない闇が来るのだ。
踊らせてくれ。
頼むから踊らせてくれ。
自分の過去を振り返る暇もないくらいに場面展開を何度も何度も行って。
気が付けばたった一人で客もいない。そんな真夜中に似合った、小さな小屋で。赤い花が舞う小さな小屋で。
私と闇を躍らせてくれ。
英雄になれるのだ。
女王になれるのだ。
王様になれるのだ。
兵士になれるのだ。
天才になれるのだ。
凡人になれるのだ。
海賊になれるのだ。
教師になれるのだ。
詩人になれるのだ。
私は。
私以外になれるのだ。
そのための闇なのだ。飲み込まれないように逃げながら、飲み込まれてようやく私という存在が形作られる日々なのだ。
だから。
踊らせてくれ。そして、小さく笑ってくれ。
足先で奏でられる音がほんの少しでもその耳に届いたのであれば、今日も前を向いて笑ってくれ。いずれ、それは嘲笑になるかもしれないが、それさえも拍手喝采に変えてしまう遊戯の延長の、悪ふざけの延長の、いたずらの延長の極上を楽しんでくれ。
頼むから。頼むから。
踊らせてくれ。
そして。
踊ってくれ。
踊ってくれないのであれば死んでくれ。
お前のためには踊れない。一緒に踊ろうともしない者のためには踊れない。死が近くて二度と歩くことができないのに、踊れてしまうようなそんな病にかからないなら去ってくれ。
ここには、そういう闇しか来ない。
しかし。
皆が躍ってしまう。
闇が躍らせるのではない。私が躍らせるのだ。
踊らせてくれ、そして、踊り続けてくれ。
踊るなと言われても、踊り続けてくれ。
踊っているふりなどしなくていい。
踊りが嫌いになるまで。
私以外の者と踊るのが嫌になるまで踊ってくれ。
死ぬその間際まで踊るところをみせてくれ。
待っている。
ここで待っている。
すべてが終わったら、私は観客席に座る。
見ている。
死ぬまで見ている。
ずっと、ずっと、お前が死ぬまで見ている。
シャウトダンス・シャットダンス エリー.ファー @eri-far-
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