ゲーム開始
壊れてゆく日常1
耳元でスマートフォンのアラームが鳴っていた。
気だるい体に活を入れ、仕方なく目を開けアラームを停止すると、表示をされる時刻は寝坊防止の最終ラインの7時を少し回っていた。気付かない内に何度かスヌーズボタンに触れて惰眠を貪っていたらしい。
離れがたいベッドから体を起こすと、4月を迎えたばかりの北海道の室温はストーブ無しではやや寒く感じてしまう。
あくびをしながらトイレで用を済ませ、そのまま風呂場に向かう。パジャマを脱いでいる間に少し熱めに設定しているシャワーを出しておく。
見たところで誰も特をしない全裸を晒し、早足に風呂場に駆け込むと寝癖の付いた髪に湯気を上げるシャワーをかける。安物のシャンプーで髪を洗えば次は洗顔フォームで顔を洗う。ついでにざらついた髭も剃ってしまう。
顔にシャワーを当て、皮脂ですっかり泡が無くなった洗顔フォームを洗い流し、目を閉じたままボディソープをプッシュ、何時もの量を手に取ると立ち上がり体を洗ってゆく。
肌が弱いのでタオルで洗うと痒くなるんだよなぁ。
シャワーヘッドを手に取り、体の泡を洗い落としてゆく。
その後少しだけシャワーで体を暖めるとカランを締めてお湯を止め、ドアを開けてハンガーに掛かっているバスタオルを手に取り頭から順に水滴をぬぐう。
適当なところで体を拭くのを止めると風呂場を出る。
シャワーで暖まった体にはひんやりとした室温が心地よい。覚醒しかけてきた頭を使い、身支度を整える。
袖を通した春物のコートのポケットから自宅の鍵を取り出して靴を履く。玄関のドアを開け、鍵を閉めると埃と小さな虫の死骸が落ちているアパート内の階段を降りてゆく。
チラシで溢れている自分の部屋の郵便受けを横目で見ながら外玄関の扉を開けて外に出る。空を見上げれば黄砂の影響らしく雲1つ無い青空はぼんやりと曇っていた。乾かしていない髪に風が当たると思った以上に体が冷えてくる。
少し早足で駐車場に置いてある車に乗り込むと、エンジンを掛け少しだけ窓を開ける。煙草の箱をズボンのポケットから取り出して、中身を1本咥え火を点ける。
ここまでは何時ものルーチンだ。
スマートフォンを取り出し、例のアプリを起動してみる。
直ぐに繊細な細工が施されたアンティーク調の懐中時計が表示された。時刻は見辛いが7時半をまだ回っていない様に思える。寝た後に新しい通知等は無いようだ。
どうやらあの25時にあったことは現実らしい。本当にこれから昨日のように25時が始まるのだろうか。出来るなら増えた時間は睡眠時間に費やしてしまいたい。
ともあれ現実は非情なようで、ラノベのようにどこかの異世界に転生し、テンプレの様にチートスキルを入手しあっという間にハーレムや一財産を築くと言うことはないらしい。
神に選ばれたからと言っても別段特典はなく、今まで通りの生活も続けていかなければならないようだ。そもそも物理演算バグ起こってるっぽい神に期待なんかはしていないが。
この時は何故、この状況を素直に受け止めてしまっているのか、それを疑問に思うことは無かった。結局のところ、あのHavokを名乗る神の仕業であることを知るのだが。
はぁ、と紫煙と共に溜め息を吐く。
これから向かうブラックな職場での労働後に、闘争を始める?
そんな元気は断言できるが残ってねぇよ。社畜なめんな。
寝不足気味の頭を少し振ってから俺はアクセルをゆっくりと踏み込み、会社へと車を走らせ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます