神の名は

 は、静かに処理を続けていた。

 何処までも果てしなく続く、薄暗い、平面世界の中で。


 その平面だけが広がる世界の中で、中空に浮かぶ人形ひとがたをした3次元体のその手足の中ほどからは、束ねられた灰色のケーブルが突き出していて、その先を平面世界の先に潜り込ませていた。


 時々、スパークに似た火花がケーブルに纏わりつき、一瞬だけその世界に光をもたらすが、人形ひとがたの他に存在をするものを照らし出すことは無かった。


 もし、この世界に誰かが居て、耳をそばだてることが在るのならば、低周波や高周波がもたらす騒音の様な耳障りな、不快な感覚を覚えるのかもしれない。だが、それは人によっては何も聞こえないと言うのかもしれなかった。


 鼻を利かせてみれば、誰かは金属の匂いがすると言うかもしれないし、焼け焦げたプラスチックの刺激臭にも似た異臭がするというかもしれないし、何も感じないと言うかもしれなかった。


 そんな、曖昧な世界の中で人形ひとがたをしたは、曖昧な時間の中で処理を続けていたが、ある時その周囲に一粒の暗い光が浮かび上がった。


 一粒の暗い光は始めはゆっくりと、次第に加速度的に速度を速めながら円運動を開始すると、その残光を持って幾何学模様を描き始める。


 その残光で作られた幾何学模様は、魔術的な才能が有る者が見たのならば非常に複雑なシジルであることに気付いたのかもしれない。


 もし、神が視たのならば絶叫を上げたのかもしれない。


 だが、この世界には以外には誰もおらず、見ることも知ることもなかった。


 暗い光がその動きを停め、残光で作られた幾何学模様がゆっくりと失われると、人形ひとがたの頭部に当たる部位の、人間で言う目に当たる部位に二筋の細い線が入った。


 そして、その線がゆっくりと開くと、そこには繊細な細工が施されたアンティーク調の懐中時計が、瞳の代わりに埋め込まれていた。

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