ルール3

 どうやら神の世界も人間の世界とそう変わりはないようだ。

 開発畑の者は現場を知らない上司に無茶振りをされ、死んだ目をしながらデスクに向かうのだろう。


「さて、チュートリアルの時間が終わりに差し掛かっている。説明予定の1/3程度しか進行をしていないが、ここまでで質問はあるかね」

「せ、説明を受けられなかった部分について、後日受けることは出来るのだろうか」

「行わない。チュートリアルの時間を使ったのは君達だ」

「勝手に質問を始めた奴だけがペナルティを受ければ良いじゃないか!」


 あぁ。出たわ。今までは進行役に任せっきりだった癖に、不発に終わりそうになったら自分は悪くありません発言。

 その後もキャンキャンと甲高い声で自分を正当化しようとする言葉を聞いていると虫酸が走る。それだったら俺みたいに始めから空気になってろってんだ。

 因みにさっきからステータス画面を開こうと頑張っている空気読めない君とは別の人種だ。アプリ完成してねーってば。バージョンアップを待て。


「で、では特に重要なポイントについてだけでも説明が欲しい!」


 再びざわつき始める雰囲気の中、出来るサラリーマン風の人物は罪悪感を感じているのだろう。先程よりも焦りを滲ませる声色で早口に質問を続ける。


「チュートリアルで告げる内容はどれも重要である。どの項目について説明が必要かを述べよ」

「……少しだけ待て!」


 ……あぁ、くそったれが。漸く俺も理解が出来たようだ。

 Havokは俺達にまともな説明をする気はない。あいつが言った通り、これはあいつが楽しむためのゲームでしかないんだろう。


 俺達がゲームをするときと同じように。

 NPCの会話に対してPCが丁寧にチャットを返すことなんてことはしないのだから。目の前で繰り広げられていた光景は、Havokが望んだ通りのロールプレイの一端だろう。

 と、言うよりも腐れ外道系GMの方がしっくり来る気がするが。


 出来るサラリーマン風の人物は悩んでいるようだが、恐らく時間内に有効打を出すのは難しいだろう。いざとなればちゃぶ台をひっくり返るくらいのことは平気でやるだろうよ。


 仕方なく、俺はゆっくりと手を上げた。目立つような真似はしたくはないが、背に腹は代えられない。

 通るか通らないかは不明だが、やるだけならタダだろう。


「質問か?後時間は30秒程だ」


 Havokは高速でその体をブレさせながら、顔を俺へと向けた。


 あぁ、くそったれ。魔法の言葉だ。


「チュートリアルの内容をZIPで寄越せ」

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