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「……まず、学長に嘘偽りなく真実を証言すること」

「それは、わかってる」

「……不安に思うのはわかるけど、学長だったら悪いようにはしないと思うよ。さっきも言ったけど」

「そうかな……」

「うん。それからこの学校にいたいなら、学費を免除してもらえる奨学生バーサリーになればいいと思う。奨学生スカラーと違ってたしか学費を全額免除してもらえるテストがあるって聞いてるし」

奨学生バーサリー……か」

「うん。それで今までの所業のせいで学校生活が不安なら――私のハーレムに入ればいいよ」

「――は?」

「……私、この世界じゃ今のところここ以外に寄る辺がないから、キャメロンの不安はそれなりにわかるつもり。んでもって私ってすごい技能を持ってるとか、すごい美人とかじゃないけど……ひとりよりふたりのほうがマシになることってあると思うんだよね」

「だからって……おれはあんたの――」

「私のハーレムって、実はニセモノなんだよね」

「――はあああ?」

「だからキャメロンに茶々入れられたことはあんまり気にしてないっていうか……。あ、私のニセハーレムは有志の協力でできてるもので、なにかしら弱みを握ってるとかじゃないからね?!」

「はあ……」

「あ、でも私のハーレムがニセってことは他の人には秘密にしておいてね……?」

「……わかった」


 キャメロンの返事にレンはにんまりを笑う。


「私は全部、本気で言ってるからね」

「ああ、わかってる」

「それならいいけど」

「……あんたが変なヤツだって」

「そっち?!」


 その言葉で、どれほどキャメロンを救えたのか、肩の荷を軽くできたのか、レンにはわからない。ただ冗談を言うくらいの気力は戻ってきたようだ、というのはわかって、内心でほっと安堵のため息をつく。


 やがて職員会議を終えた学長と養護教諭が医務室へと戻ってきた。キャメロンが起きていることにふたりはびっくりしていたが、キャメロンの証言にはさらに目を丸くしていた。学長などはキャメロンを不憫に思ったのか、目を潤ませていたくらいだ。それを見てキャメロンもびっくりしていたので、なんだかみんなおどろいてばかりだなあなどとレンは思った。


「人間として、大人として、学長として、キャメロンのお父様の所業は許せるものではありません」


 学長の力強い言葉に、横にいた養護教諭も深くうなずく。レンは視線で「だから言ったでしょ」とばかりにキャメロンを見た。キャメロンはどこか気恥ずかしそうな顔をしている。うれしいのだろう。レンにもそういう気持ちを気恥ずかしさで隠そうとしてしまう思いは、わかった。


「今一度、キャメロンのお父様とは話さなければなりませんね」

「でも、父がそう簡単に認めてくれるとは思いません……犯罪であることは父にもわかっているはずなので」

「――じゃあ、認めるように誘導すればいいんじゃないの?」


 レンの言葉に三人の視線が集まった。



 *



 およそ三日後。フリートウッド校へと呼び出されたキャメロンの父親は、今にも暴れだしそうな気配だった。ひどい疑いだと学長に食ってかかり、名誉毀損で訴えると息巻くありさまだった。


「キャメロンは女ですよ! 産まれたときに確認しました! 男だというのなら妻とキャメロンが私を謀っていたことでしょう! 私はまったくの無実ですよ!」


 学長室の扉越しにも聞こえてくるキャメロンの父親の言い訳は、見苦しいのひとことだった。


「フリートウッド校は名門だと聞いていましたが、語るに落ちたとはこのことです!」


 それを捨て台詞にキャメロンの父親は一方的に議論を切り上げ、学長室を出る。外で待っていたキャメロンとレンは、緊張した様子で顔を見合わせた。キャメロンは今は女になっている。キャメロンの父親に罪を認めさせるための芝居を打つために、魔法薬学の教師が調合した変身薬を服用しているのだ。


「お父様、お話したいことがあります」

「どうしたキャメロン……そんな風に改まって」


 キャメロンの父親はレンという部外者がいるせいなのかは知らないが、学長室での横柄な態度は鳴りを潜めている。あるいは本来はキャメロンが言ったように、こちらの大人しい口調が本性なのかもしれない。今はどうでもいいことだが。


「わたしたちの将来に関する、大事なお話です」

「……わたし『たち』?」

「――初めまして。レン・カンベと申します。キャメロンのお父様にはずっとお会いしたいと思っておりました」

「え、あ、ああ。君はキャメロンのとも――」

「恋人です」

「は?」

「恋人です」

「……ごめんなさい、お父様――わたしたち、女同士だけど、愛し合っているの!」


 キャメロンの父親は顎が抜け落ちんばかりにあんぐりと口を開いた。その間抜けぶりたるや、レンは内心で笑いをこらえるのに必死にならなければいけないほどであった。頬の筋肉を総動員させて、レンは必死の形相を作る。キャメロンと「女同士で」愛し合っていると見せつけるために。


 ちなみにこの日のレンはスカートを穿いていた。ズボンではどう見ても男だったので、キャメロンの父親への説得力を増すため、やむなくスカートを選択したのだった。お陰でキャメロンの父親も、レンを女だとすぐに認識できたらしかった。


「は、な、な、な、な――」


 二の句が告げないとはこのことだろう。ここからが本番だ。レンとキャメロンは迫真の演技で畳み掛ける。


「すみません、キャメロンのお父様。この世界では許されないことだとわかってはいますが……私とキャメロンは真摯に愛し合っています。どうか認めてください」

「……『この世界では』?」

「レンは異世界人なの。異世界から身一つできたから一文無しだけど、とっても素敵なひとなのよ」

「お嬢さんは必ず私が幸せにします! だから――」


「ばっ、ばっ、ば――バカか?! なんのために高い金を払ってお前を女にしたと思っている?! おいそこのお前! こいつと愛し合っているとか言っていたが――こいつは女じゃない! 男だ! わかったらとっととこいつとは――」


 キャメロンの父親が言葉を言い切らないうちに、勢いよく学長室の扉が開いた。

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