第9話 一人で叶わないなら
二人は気丈としていた。
「面……随分変わったじゃねーの。なぁ、ニトー」
この選択は二人にとって自信を持って勝てると言える物ではない。だが、「二人なら」と——そう彼らに思わせる策だった。
「作戦……。何かあるみたいだな」
レイは直感した。この二人にはこの闘いを勝ち抜ける手段があるという事を——その直後、二人の作戦は始まった。
「——行くよ! 名一杯!」
そう言い放つと杖を大きく振り上げ、少女は
「お前らはどうあがいても格下だからな……。ハンデをやるよ——って言ってやりたいところけど、時間を上げちゃア、お前たちに失礼だからなァ!」
言うとレイは無詠唱で≪
だが、少女はレイの攻撃にソッポ向き、自分の役割を果すため
それは
「そのくらい知ってら! レイ兄と何年兄弟やってると思ってるんだよ」
まるで来ることを知っていたかのようにそれよりも早く<
「——ッ——」
「おっと……!」
灰色の剣の攻撃はレイの意表を突く——しかしレイはその攻撃を≪
「ニト! 忘れたわけじゃねェよな? この城の結界のことを!」
この国には二箇所結界がある。
一に街の周りに予め大きな災害級の魔法(主にレイの極海魔法対策)に対し被害を及ぼさないようにする第一の結界≪一つ目の
「お前の……。嫌、お前たちの目的はそいつの今貯めている
後ろに回り攻撃されたら元も子も無い。
レイは少女を指差す。
「お前の貯めているその
レイは着地をすると同時に大きく腕を振り上げる——するとレイを中心に多量の
「我、レイ・クレイシスの名の元に命ず。後悔の過去を切り捨て、全てが救われる未来よ 顕現せよ! 極海魔法 ≪
その膨大までの魔力は凝縮され、小さな球体の
「——?」
だが、その膨大なまでの
「——どういう事だ?」
これまでニトはレイの魔法を見る機会が何度かあったが、この魔法を使ったのは今回が初めてだった。
「山の向こうに何があるって?」
向こうには何もない。ただの。
「何も……。嫌、あった。あっ……タッ!」
海だ。巨大な海が存在した。
「もし海が関係していたとしたら。その水を持ってくるものだと仮定できる。ならその量はどのくらいだ?」
よく見ると数十キロ先の海辺の位置がはっきり分かるくらい巨大な波が押し寄せるのが確認できた。
「——はっ」
思わず息を呑んだ。
「化け物か……アイツはッッッッ!」
普通の、並の魔法使いでは無いと思っていた。でもそれさえも超えていた。予想を遥かに。
体積も密度も重さも。
「あれが災害級魔法」
それは災害と呼ぶにまさに相応しい物だ。
今まで受けて来たものでも相当な威力があった。でも、
「それの何倍あるのかよ……」
正直、不安しか無かった。でも、
「ニト君——行けるよ」
少年のその揺るぎない一言でニトは自信を取り戻せた。
「ああ……。そうだな」
この作戦は二人で息を合わせないと出来ない。
「……ハハ! やってみろよッ!」
レイは不可能を確信していた。
仮にこの防護結界を破ったとしても二人が城に辿り着く前にこの波は届く。波が届く前に魔法を転換できたとしても、レイの魔法を受け終わった頃には体力が無くなり倒れる。
「お荷物を背負った
「——ッ!」
「ニト君!」
「——あぁああもう! 分かってらぁ!」
少年は
「死ねェッッッッッッッ!」
巨波が街までやってくる。
「我、水の管理人、イデア・クリスプの名の元に命じる。全ての物を守り、全ての時代を救う盾を——作成(さくせい》せよ。水魔法≪
その名の通り、数十人分の巨大な盾を顕現させる
「後者!——いい選択かもしれんな。死なない選択。だがッ! 攻撃無くして俺には勝てないぞ! 神の代弁者よ!」
レイは背中を大きく反らせ腕を大きく振り下ろした。
「これが俺の全力だーーーー!」
次の瞬間、この国を巨大な水塊が覆いつくした。
二人に大波が進行する。
「——はッ? なんだあの形は」
二人は奇妙な形で
「……まだだよ」
「……もう少し」
一方、ニトが城の方を向き<
「——まだ」
「……」
——そして、
「———今だッッッッ!」
二人は地を蹴り、盾を引き摺らせながら波に押し出される。
「「——ッ!」」
『ニト君って炎使えるんだよね?』
『——はっ?』
「
大波の押し出す勢いを背中で受けバランスを保ちながらそう呟くニト。絶対に成功すると己を鼓舞しているかのようだった。
『え? まさかそんなのにお前は賭けるのか?』
『だって、使えるはずなんでしょ?』
『ああ。そのはずだ。確かに俺は、兄から受け継いだ。でも、一回も出したことが……』
『なら大丈夫。ニト君ならできるから』
『どうして……』
『だって君は誰かのために強くなれる人だから』
——誰かにお前ならできるなんて言われたのは初めてだった。
君なら出来るから。
——だから。
だって君は誰かのために。
——俺は、
強くなれる人だから。
「ニト君!——任せたよ」
——この信頼に答えたい!
「
剣はその叫びと共に美しい炎を宿したような模様に変わる。
それは灰色の鈍。名剣の残りカスのような物が猩々緋の光を取り戻した奇跡の変貌した姿。
その剣は空を切り裂く鋭さを兼ね備える。
その剣から放たれた一撃は城の守りを容易く破る。
防護を切りその風圧で門の扉も押し開く。
「もう……。ダメ!」
門が開いたのと同時に
「おっとっ!」
城の中に水を入れないようにレイはその進行を止める。
「なんだよあの剣——見た事ねぇ色、赤色をしてやがる。しかもあの炎……」
嫌、それよりも、
「あーあ。負けちまった。クソ! なんだよ。なんか。嬉しいじゃねーかよぉ」
気絶している二人の元にレイは向かう。
そこには全てを終わらせ、疲れ果てているのにも関わらず、喜びに満ち溢れ全てをやり切ったことを喜んだ笑みを浮かべさせたまま寝ている——≪二人の姿≫があり互いの手が微かに重なっていた。
「——チっ。良い寝顔しやがって」
悪態をついた彼の言葉とは裏腹にレイは、どこか嬉しそうだった。
「イデア……か——? 嫌、待てよ。イデア? ? 嫌、どうしてコイツ、自分の名前を知らないなんて言ったんだ? まさか、今の闘いの最中で思い出したって言うんじゃねーよなぁ⁉」
レイは大きくため息を吐き、
「謎だ」
と、最後に彼らしく悪態を吐く。
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