第7話 海前
「
一秒と立たないうちに先程と同等の量、否。それ以上の量の水を形成。
今度はその膨大な量の水を少女たちに集中させる。
「無詠唱!」
極海魔法を無詠唱で放った。
無詠唱とは膨大な
それが極魔法ならば、尚更。
少女やニトの使うような魔法を一とするならば無詠唱は一〇や二〇酷ければもっと多量の
その数字は極魔法に匹敵する。
いくら魔力が早く回復する管理人であろうとも、一度に発生させられる魔力の量には限度がある。
極魔法は普通の管理人の魔法の一〇倍、二〇倍で。その無詠唱版。
「俺の魔力の——一〇〇倍以上の量‼」
国一つを簡単に潰せる災害クラスの魔法——極魔法。その無詠唱。これこそレイ・クレイシスが『≪極魔法≫の使い手』と言われる所以である。
常人の域では絶対に辿り着けなく管理人でさえ使う事が難しいとされる極魔法を見境なく撃てる。極魔法の使い手の言われは伊達じゃない。
「そんなの私だって! 水魔法≪
レイに対抗するように無詠唱で魔法を使用する少女。だが、その規模の差は湖とミジンコ程。
「ハハっ! 正面から受けるつもりかよ! 良いねー! 流されるなよっ!」
≪
「——ッ——」
その攻撃はハードルの≪
「だから——≪
そこを狙う。レイはその瞬間を見逃さなかった。
水で作った槍は少女の右腕に突き刺さる。
槍は腕と触れた瞬間、嘘みたいに簡単に粉々になった。だが少年の受けたダメージは見た目より激しく、刃物が刺さった感覚に近い、腕に腫れが出来る程に。
「——力が入らない⁉」
さらに、
「
それはたった数秒魔法が発動できない程度の事態であった。
「まあ、当たり前だな。魔法を使うに当たって無詠唱は魔力がそれほど無い奴にとって不利的要因だ。お前はまだ魔法が使えるようになったばかりのひよっ子同然のレベルのようだし。魔力量なんて高が知れる。そう何度も打ってたら、まあ、こうなるだろうよ」
自分の経験の無さを思い知った。
無詠唱を続けて放っていたから普通の魔法の消費量がこのくらいなのだと、感覚が麻痺していた。
魔法が使えるくらい
「——ッ——」
悔やむ時間も反省さえも真の闘いの場には存在しない。相手が女だからといって力を抜くレイではない。
「極海魔法≪
レイの魔の手がさらに少女に掛かる。
≪
二人は逃げ道を完全に無くした。
「水魔法……!」
「遅い!」
次の瞬間、無数にも思える程膨大な数の槍の雨が放たれる。
「————!」
少年の寸前に槍雨の一角が襲う。——だが何も思いつかない。
頭が真っ白になりその攻撃を防ぐ術が浮かばないまま、少年は攻撃を——、
「——≪
だがそこに錆びれた剣を右手に持ったニトが現れ、寸前の槍を薙ぎ払う。
「ニト……君っ!」
その全てを防ぎ切れず腕が少し切れ、深手を負った。少女を槍から守ったニトは即座に彼を抱えて逃げ出す。
「ニト君。私はまだやれ……」
諦めきれない。
「——安心しろ。どうせすぐに追いつかれるっ!」
「水魔法≪
レイを乗せた水流が二人たちの逃げ道を塞ぐ。
「……ほらな」
「逃げれねぇってのは分かってたみたいだな」
「ああ。そうだろうよ。だってあの時も……」
何を言っているか分からないとレイは首を傾げる。
「忘れた訳じゃないよな?」
殺意。脅しでは無く本当に殺すつもりの確かな殺意。
「ああ、あれか」
「あれか? あれか、だとッ⁉ 俺は全て覚えているぞ! あの地獄の中でお前だけ楽しむ確かな声音を。痛い痛いと泣き叫ぶ友達に成った兵士たちの声。お父様とお母様の生首の……血の匂いも……。それをあれかで済ますのかよ……」
最後の言葉に吐き気を催すニト。それでもまだ彼の口は止まらない。
「今でも! 今でも‼ 思い出しただけで気持ちが悪い! 吐き気がする! 侮蔑——軽蔑する! お前を‼ お前は! お前は‼——どうしてあんなことができたんだ⁉」
「……」
その心からの叫ばれた言葉にレイは何も答えない。
「そうか……」
隣で彼の訴えを聞いていた少年が口を開く。
ニトはいつも明るい。だけど彼は時々どこか闇を抱えた表情になる。
「ニト君……」
「なんだ! 今、俺っは……。え?」
少女は優しく目を緩ませてニトを包む。
「——どうして。おまっ……」
これは決して、笑っている訳ではない。でも怒りも、憎しみも何もかも感じない。
「分かった。大丈夫。大丈夫」
「あ……あぁ」
「こういう時は泣くものだと思うんだけど?」
ニトが離れるとそんな軽口が跳んできた。
「ごめん……」
ニトはふと気付く。
「——え?」
自分の怒りが収まっていることに。
「ねえ、ニト君。私ね、やりたい事があるんだ。そのために二分でいいから時間を私にくれない?」
ニトは少女の先程の態度を引き摺り戸惑いながら——でも答えるべきだと咄嗟に判断し無意識の内に「ああ」と答えた。
「な、なあ……」
何を聞こうか。
「何も言わないのか?」
過去に何があったのかを聞かないのか。これが少年に尋ねたかった言葉かはニトにも分からない。
「言うよ。後でいっぱい言う。だから——取り合えず、今は勝つよ」
少女のその小さな背中はどこか頼もしく思えた。
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