第32話ウミ&受付嬢&チンピラ風味A・B

「こんにちは。こちら探索ギルドでよろしいでしょうか?」


「はい。そうですよ?入口の看板見えなかった?」


「いえ、一応確認の為に」


「はあ」


「あの、つかぬ事をお伺いしたいのですが、古代遺跡ってやっぱり探索ギルドに加入してないと入れないのでしょうか?」


「はあ、規定ではそうなってますね」


「ちなみに、僕、狩猟ギルド員なんですけど、遺跡内で何でも野獣が出没するという噂を聞きまして、用心棒的な仕事を此方で出来ないかと来てみたんですよ」


「あ〜。そういうのは傭兵ギルドの方にお願いしているので恐らくないですね」


「おうふ」


 そりゃそうだ。

 大体、この世界の傭兵は対人対獣への戦闘技術は勿論のこと基本、人を守りながら戦う専門職だ。


 狩人なんてお呼びじゃないか。


「あ、でも斥候役の仕事でしたらあるかもですね。多分ですけど」


「マジですか!」


「た、多分ですよ!」


「何処か受け付けてませんか?」


「調べますので少しお待ち下さい」


「はい!」




〈side 受付嬢〉


 何なのあの子?


 可愛い顔して肌綺麗で髪も艶々で服装も貴族の方みたいに高級品だし、それなのに狩人ギルド員ってどういう事?


 何か訳ありっぽいし、余りヘタな所とか紹介して、あの子に何かあったら私の首が物理的に飛ぶなんて事に……。


(((゚〰゚)))ブル


 もし、本当にそうなら私の手に負えない。

 ギルド長案件だわ。


 どうしよう。

 そうだ!


「ごめんなさい。ちょっと此処には無いみたいなので、奥のも見てくるわね」


「あ、なんか忙しいのに申し訳ないのです」


「良いのよ。ちょっと待っててね?」


「あ、はい。ありがとうございます」



 そそくさとギルド長に全部振ろう。

 責任者は責任取る為に居るんだしね。

 うん。うん。



〈side ウミ〉


 奥の部屋に入っていった受付嬢さんを見送りながら何とかなりそうな気配にほっとしていた。


 なんか後からナンパしてる声が聞こえた。


「お嬢ちゃん、こんな所で何してんの?お使いかなぁ?」


「そんな事より俺達とお茶でもしない?」



 全く、ここは仕事斡旋所だぞ!

 ナンパは他所でやれ!

 それに余り酷く付き纏うようなら助けてあげないと。

 でもタイミング間違えると僕までナンパの仲間だと思われるし中々難しいよね。

 たまに余計なお世話とか言われる時もあるし、助けるべきか。

 うーん。



「…………」


「おい!嬢ちゃん!お前だよ!」


「何、シカトこいてんだ?あ!」


 いきなり肩を捕まれて自分が絡まれている事に気づく。


 振り向くと下卑たチンピラ風味が2人いた。


 はあ?何で野郎が男ナンパしてんだよ!

 気持ち悪っ!

 思わずジト目で見てしまった。


「お!なんだよ!大当りじゃんか」


「可愛い顔してんじゃん!お嬢ちゃん。俺達と一緒にいい事しようぜ」


「?………………ああ!」


 思わず首を傾げた後に両手でポンとガッテンしてしまった。

 そういえば、自分が空音渾身の美少女アバターである事をすっかり忘れていたよ。


 そりゃこんな所に突っ立ってたら声も掛けられるわな。


 こんなにも安易なテンプレ本当にありがとうございます。

 こういった事があるとアルファ村の皆さんの何と心の清らかな事よ。


 しかし、こんな所で騒ぎを起こしてダンジョン入れなくなったら元も子も無いので高速移動と隠密の合わせ技で彼らの後ろに移動した。


「あ、れ?何処行った?」


「え?消え…た?」


 キョロキョロし始めたので、延々と死角に高速移動して気配を消しながら後ろから「裏飯屋〜」と呟いてあげた。


「ひぃ!」


「お、おい!変な声だしてんじゃねぇ!」


「だ、だってよ!なん声が聞こえたんだよ!うらめしい〜って!」


「なんだよ!うらめしいって!」


「言ってたんだって!」


 ちょっと楽しくなってきたので後ろから首スジに息を掛けて見る。


「うわっ!何だ!」


「どうしたんだよ!」


「今、首スジがゾクゾクって!」


「なんだよ!そりゃ!」


「な、なあ。まさかさっきに女って幽霊だったんじゃ」


「何馬鹿な事言ってんだ、俺はちゃん触れられたぞ」


「でも!突然消えたじゃねぇか!その後に声が聞こえて背筋がゾクゾクしたんだ!絶対女の幽霊だよ!お、俺はもしかして取り憑かれちまったのか!どうしてくれるんだ!お前が声かけようなんていうから!」


「お前だってノリノリだったじゃねえか!」


 何だか喧嘩になりそうなので、「今日麸の味噌汁」「開くの10時か」と高速声掛けと高速息吹きかけを交互にグルグル周りながらチンピラ風味さんに浴びせてみる。


「うぎゃー!」


「た、助けてーおがあぢゃーん!」


 2人してギルドから逃げ出した。


「あはははは!マジウケる」


 思わず腹を抱えて笑ってしまった。


 そして、その一部始終を受付のお姉さんにバッチリ見られていたのだった。

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