第10話ソラ&ルールー
あれから1ヶ月程経って、私は未だにルールーさんのお宅に厄介になっていた。
ルールーさんは、この村の唯一の薬師らしく総人口21人のお医者さんも兼ねている。
ルールーさんは、隣りの大きな街にいる御歳65歳の薬師に15歳の時に弟子入りし、5年の修練の後、薬師資格を取って独立し、生まれ故郷であるこのアルファ村に薬師として帰って来たらしい。
薬師を目指したのは6年前に流行り病で亡くした母親の後を継ぎたかったからだそうだ。
因みに父親の顔は見た事が無いらしい。
何か聞いちゃマズイ話ぽかったのでグダグダに話は終了してしまった。
そして現在、私はと言うと流石にタダ飯喰らいにはなりたくなくなかったので、今はルールーさんの調合の手伝いや家を周っての診察の手伝いとかしている。
おかげで村の皆に顔と名前を覚えて貰えた。
皆、良い人達ですぐに受け入れてくれた。
初めて教えられながら行った調合は1発で成功し、ルールーさんに筋が良いと褒められた。
ちょっと嬉しいかった。
あの時、ログアウトが出来ないと戻る手段が無いと解った時、私は泣き崩れてしまった。
そんな私をルールーさんはずっと慰めてくれたし、抱き締めて一緒に眠ってくれたりもした。
3日程落ち込んで居たけれど黙ってここに置いてくれていたルールーさんに申し訳なくてお手伝いを始めた。
初めは薬草採取の手伝いとかをしていたのだけれど、ルールーさんの作業をじっと見ていた私に貴女もやってみる?と話しかけられた事を切っ掛けに薬師の調合をする様になった。
今ではルールーさん以上の薬効効果が出る物や別の組み合わせで別の効果のある薬も調合出来る様になっていた。
ルールーさん曰くこのまま薬師の勉強を続けて資格を取れば、宮廷薬師にもなれる可能性だってあるだろうと言われた。
けれど私は別に薬師に拘っている訳では無いので苦笑しつつ話を流した。
今日は隣りの大きな街にこの辺だと手に入らない薬品を購入する為にルールーさんと買い出しだ。
ただ、馬車で片道3日程掛かるらしいので留守番でもするかい?と聞かれたけど、大きな街なら私も見てみたかったので一緒に行く事にした。
因みに、街までは10日に1度来る行商人の馬車に便乗させて貰う予定らしい。
「ルールーさん。私、その行商人さんに乗せて貰わなくても行ける移動手段があるんだけど、良かったらそれに乗りませんか?恐らく馬車で行くより速いはずです」
「え?そうなの?だけどソラ。貴女出会った時、身一つだったじゃない。いったいどうやって行こうって言うの?」
「まあ、少し待ってください。外、出ましょう?」
「え、ええ。そうね」
2人で家の外に出て意気揚々と胸を貼りドヤる。
「じゃん!こうするんです!」
そして、アイテムボックスからエアバイクを出現させる。
「わわっ!何これ!」
「にしし。乗り物ですよ!乗り物!」
エアバイクに跨りルールーさんに後ろに乗るよう促す。
恐る恐るバイクに跨るルールーさん。
「ちゃんと私に捕まって下さいね!じゃ無いと落っこちますよ?」
「こ、こお?」
「もうちょい、しがみついて下さい」
「こ、これぐらい?」
むぎゅうと背中に柔らかい幸せが押し寄せる。
「むぅー。なんだか格差社会を感じる」
「なんか言いました?」
「何でもないです。動かしますよ」
そうして、家の周りをウロウロと走らせる。
「きゃっ!ど、どうなって!う、浮いてる!」
「そりゃあエアバイクですから。どうします?このまま行っちゃいますか?」
「え?このまま行けるの?えと。じゃ、じゃあ出かける準備をしてくるから、ちょっと降ろして」
「了〜解」
そして、家に入っていったルールーさんは、財布等を入れた肩掛け鞄と背負子を背負って出て来た。
「待たせたわね。それじゃあよろしく頼むわ」
「ルールーさん?荷物なら私、幾らでも仕舞えますよ?」
「へ?どうやって?」
「いやいや!私、さっきエアバイク目の前で出したじゃないですか!私の持ち物こんなの比じゃないくらい持ってるし、アイテムボックスはまだまだ余裕と言うほど余裕はないですけど10種類ぐらいなら余裕で入りますよ。それに同じ種類の物なら99個は入れられます」
背負子を借りて出し入れして見せた。
「んなっ!……と、とんでもないわね。ソラは。一体どうなっているの?」
「にしし。企業秘密です!だからまあ余計な持たずにと言うか、ぶっちゃけ財布だけでいいですよ!その方が身軽ですしね。何なら財布も預かりましょうか?落としたらマズイし」
「そう…ね。うん、助かるわ。落としたらマズイものね。それにきっと街に行けばスリとかにも気をつけなきゃ行けないし」
「あー。やっぱりいるんですね、そういう人」
「まあ、スラム街とかあるぐらいだしね。どうしょうもないわよね。ほらほら、そんな事よりとっとと行きましょ!」
「了〜解!しっかり捕まってね!」
「ふふふ。了〜解!」
そうして、私達はベータウンに向かって走り出したのでした。
◇
「ちょ!ちょっと!ソラ!そっちじゃ無い!あっちあっち!」
「おお〜と!こりゃ失礼!」
「ソラ。本当に大丈夫?本当に馬車より早く着けるのよね?私、不安になってきたわ」
街までの旅は続く……。
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