第3話 俺の携帯電話は間違っていた。
===========
────05:43────
===========
俺は宙に浮かぶミニタコ、クトルにパラメーターの見方を聞いた。
しかし、ピンクの頭を横に振られる。
「いいだろ! もしかしてわかんないのか?」
足2本を上げて再度、頭を横に振るタコ野郎。
目玉は片目だけ閉じられ、凄く馬鹿にしたような表情。
「おま……知ってんじゃねぇか!
せめて一番高い血力ってのだけでもいいから!」
すると今度は自分の足を剣に見立てて、空中で素振りの真似をし始めた。
何してんだよ。パントマイムか?
そしてクトルの頭が縦に────割れ。
歯と思われる白いギロチンが素振りした空中で噛み合った。
────ギィン。
そしてすぐに頭が元に戻る。
マスコット的クリクリお目々のタコの出来上がり。
「こっわ!! もう近づくなよ!? いいか? 絶対だぞ?
言っておくが、これはフリじゃないからな! いいな!?」
凄く悲しそうな表情になったクトル。
ピンク色の体が、紫や青、緑に忙しなく色を変えていく。
「もしかして……い、今のが血力の説明か?」
頭をおずおずと縦に振るクトル。
「倒した奴を食えと?」
また肯定の首振り。
「レベルアップ出来る……?」
微妙に首を曲げるクトル。
ちょっと違うようだ。
「とりあえず、敵を倒したら強くなれんのね」
ブンブンと首を曲げまくるクトル。
俺の持ってる聖剣を足でさし、違う2本の足でまたバツマーク。
「この剣じゃ強くなれない?」
バツマークがマルマークに変わった。
正解したようだ。
「でもどうせこれが最強な…………」
愚痴り切る前に。
────ヒュッ。
鈍い銀色の何かが飛んできた。
俺の鼻先を掠め、洞窟の壁に刺さった。
それは、小さい短剣。
敵だ。危険信号が頭になる。
ヒシヒシと伝わってくる殺意。視線。
洞窟の奥から2つの鋭い眼光が見える。
もっと見ようとして、重い聖剣を掲げた。
咆哮。
「ギァアアアアア」
緑の化け物。
色んなゲームで出てくる容姿そのもの。
こいつは────ゴブリンだ。
ボロボロの布を腰にだけまき、汚い禿げ面頭。
垂れて長い鷲鼻とぎょろりとした目玉。
体躯は俺より少し小さいくらいだろう。
他にゴブリンではない名前があるかもしれない。
だが少なくとも日本での命名権は俺にあるだろう。
露出狂の美少女勇者はRTAにこだわっていた。
察するに、この出来たばかりのダンジョンには俺しか入っていないはず。
そうなれば俺が第一発見者だ。
魔物図鑑を作ってやる。
ここが夢か異世界か。
そんなことも分からないが、俺はそもそもゲーマーだしな。
目の前のゴブリンは今、真っ直ぐ俺を威嚇している。
では俺も。
「貴様、聖剣持ちのフリー……自由の勇者に勝てるつもりか?」
「ギアァアア」
うーん。効いてない。
剣を構えておくのも限界だ。
もう、腕はプルプル。
剣先は地面につきそう。
というか付いた。
「ふん。この構えを知っているか、ゴブリン?」
俺の虚勢を半目でみているクトル。
ってか、クトルが食うか、攻撃するかで終わりなんじゃないのか。
ゴブリンは様子を首を捻りながら様子を伺っている。
「自由の呼吸ッ!────壱の型…………」
と言ってクトルに目配せした。
「タコなぐ────」
その瞬間。
ズボンのポケットから何かが聞こえた。
────着信音。
スマホである。
待て。
圏外だったろ。
今更になって文明を主張してきやがって。
すぐさま聖剣を地面に落とし、ゴブリンに両手で待ってねポーズ。
そして電話に出る。
「もしもし?」
「もしもしマスくん? ね、何処にいるの? 急に匂いが消えたからびっくりして」
「…………は?」
幼馴染の花澄だ。
実家の石切家は歴史ある旅館を営んでいて、そこの長女で本名を石切花澄。
将来は若女将。フリーターとは本来決して相容れぬ存在。
心配性と自由奔放の二面性を持つ、18歳の黒髪美少女。
長年の付き合いで色々知っているが、「匂いが消えたから」って何だ。
「何の匂い?」
「あ……! えっと…………ううん、違った。
増えたんだった」
「そうかそうか。で結局、何の匂い?」
「他の女のにお……」
────ピッ。
ふぅ。
今はっきり分かった。
これは、夢じゃない。
あの反応は…………本物。
間違いない。
花澄とその家族、石切家には中学1年生の頃から数えて約6年間もお世話になった。
当時、交通事故で両親を亡くした俺を大切に育ててくれた。
家族ぐるみで仲が良かったとはいえ、旅館の一室を六年間も貸切状態で、高校卒業まで。
(ありがとう……)
────ブーッ、ブーッ……。
また電話がきた。
拒否一択「ピッ」
────ブーッ、ブーッ……。
電話が、鳴っている。
===========
────08:21────
===========
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます