八月、あなたと共に

後悔

 文化祭の日が近付くに連れて、私は彼女たちの後悔を目にする。

“私には何も出来なかった”

 それは、自殺を止められなかった彼女達の十四文字の後悔。

 何気ないライブの告知とは別に語られるそれらは、ReinaとMikaが自殺して二年経つ今でも確かに残る遺恨だった。

 携帯をベッドに投げ出す。

 目の前に移るのは、見慣れた天井。

 死に触れる度に、死が近付く度に、私は『After death』のメンバーだった彼女たちのSNSのアカウントを覗いてしまう。

 もう二年。彼女たちはReinaとMikaの居ない現実を、今も生きている。

 かつて『After death』として名を連ねた、ドラムのAkariと、ベースのHaruは、今はそれぞれ別のバンドで活動をしている。

 メンバーの死を止められなかった彼女達。メンバーの死後も音楽活動を続けている彼女達。

 身勝手ながらに私は思う。理奈と綾部さんにも、そうであってほしいと。

 でもそれは、少し重すぎるかなとも思う。二年後にはすっかり私のことを過去の出来事だと割り切ってほしい。割り切って、楽しく音楽活動を続けてほしい。あの音を合わせる一瞬一瞬を楽しんでほしい。そうしてくれたら、思い残すことは何も無い。

 文化祭まで残り二週間。練習は滞りなく。練習の無い土日は、四人で楽しい時間を過ごすこともある。菜乃花との身体の関係も続いている。乱れる菜乃花を見ると、どうにも私は性的に興奮するようだ。そんな菜乃花の姿を、心中するまでずっと見ていたいとも思う。

 心残りはないだろうか、と自分に問いかける。

 あやふやになっている啓太からの告白。温かくて、優しさをくれる祖母。安否の知れない母。一生許すことの出来ない父。

 私が死んだら、彼らは、それぞれ何を思うだろう。

 そんなことを考えながらも、頭を過るのは、彼女達の十四文字の後悔。

 私はそうはならない。菜乃花と確実に心中を遂げてみせる。

 微かに感じる胸の痛みと、揺るぎのない決意と共に、ゆっくりと目を閉じる。



 

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