想い
「今、何してる?」
菜乃花にメッセージを送ると、すぐに既読がついた。
「何もしてないよ」
菜乃花からのメッセージに既読がつく。なんて返そうと、寝返りを打ちながら考える。特に用があるわけではなかった。ただ純粋に、菜乃花とやり取りがしたかった。
「凛花ちゃんは?」
菜乃花からメッセージがくる。
「菜乃花と話してる」
既読。
「私も凛花ちゃんと話してる」
取り留めの無い会話に、思わず笑みが零れる。
「顔合わせどうだった?」
取り留めの無いやり取りを眺めていると、菜乃花が話題を振ってくれた。
「苺パフェ巡りをしてきた」
「あれ……?」
「一人問題児がいるけど大丈夫そう」
「よかった」
スマートフォンを枕元に置き、仰向けになる。
こうして、菜乃花と他愛ない会話をしていることが、まだどこか、ふわふわしている。
それは、私にとっての念願だった。
可美原を離れ、中学校に進学して、高校に進学して。
高校では交友関係を必要最低限に抑えているが、可美原に引っ越してくる前に通っていた中学校ではそれなりに友人がいた。
気の合う友人も中にはいた。それでも、いつも頭を過るのは、菜乃花のことだった。
年季の入った天井のフローリングに、手を伸ばしてみる。
かつての友人達と、連絡は取っていない。取ろうとも思えない。
菜乃花と理奈が居てくれたら、それだけで十分だ。
ふと、頭を過るのは、理奈の言葉。
『菜乃花ちゃんと、四人で文化祭のステージに立つことが不可能では無いってこと』
浮かれてしまいそうになる気持ちを沈める。
スマートフォンを手に取る。やり取りは止まったまま。
「菜乃花は」
一息置いて、既読がつく。
「好きな音楽とかある?」
既読。やってしまったと後悔する。
「嫌な話題だったらごめん。忘れて」
「ううん」
安堵と反省の混じった、ため息が零れる。本当に浅はかだと思う。
「あるよ」
それは、予想もしなかった言葉。
「聞いてもいい?」
「After death」
思わず、息を呑む。
身体を起こす。のめり込むようにスマートフォンに釘付けになる。
「知ってる……? もう、解散しちゃったんだけど……」
「知ってるよ」
「!」
「私も好き」
「凛花ちゃんも」
「どの曲が好き?」
既読。すぐに返事が来る。
「水眠死」
それは、予想外の答えだった。大抵の人は、ドラマやアニメの主題歌だったり、CMに起用された曲を好きだという。理奈だってそうだった。
「聴いたことある?」
不安そうな菜乃花からのメッセージ。
「もちろん。私も水眠死、好きよ」
「びっくり」
「私も」
『水眠死』は『After death』の中でも異色の曲。決して有名どころではない、マイナーな曲だ。それなのに、数多くある名曲の中から『水眠死』を選ぶということは、菜乃花もReinaとMikaの行く末を知っているのだろうか。
もし、知っているのだとしたら――
二人の結末を、どう捉えているのだろうか。
「一緒だね」
一緒。何気ない菜乃花の言葉に、胸が温かくなる。
無性に菜乃花に会いたくなる。気付いた時には、どうしようもなく気持ちが溢れていて――
「明日、放課後会えない?」
溢れだした気持ちは、もう止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます