第5話 洗礼

マホからの洗礼を受けて、私はどうやって家に帰ったのだろう。

いつもは何でもすぐにリコにメッセージを送るのだけど、その日は自分に起きた出来事に驚きすぎて、それどころではなかった。









次の日。







お弁当の時間。

マホは昨日のドラマの話を他の友達としたいから、と、別のグループと食べると伝えて、こちらにはこなかった。

私もリコも、芸能人には疎い。

特にリコは親が厳しくて、好きなドラマも見られないらしく、そういう話題は好きではなかった。







不穏な空気が流れていたのだろう。

案の定、リコから


何かあったの?



と、聞かれた。







ひとまず、昨日、連絡しなかったことを謝っておく。

リコはそういうことにけっこう細かいから。

あまりにびっくりして、何にも考えられなかったんだ、と。







昨日、リコと別れてからのことを、ゆっくり話すことにした。

周りに気づかれないように、二人でお弁当を掻き込み、定番の渡り廊下へ出向く。






今日は天気がいい。

私の心とは裏腹にスッキリ爽やかな空気の中、マホの唐突な宣言を淡々と話した。









うつむきながら話をしていた私は、話終え、顔を上げて言葉をのんだ。

リコが見たこともないくらいに怒りに満ちた顔をしていた。






なんなの!

信じられない!








抑えた声ではあるけれど、吐き捨てるように言った。







リコってこんな風に怒ることってあるんだ。

マホってそれくらいのことをしたんだ。

そっか。

なんかマホのことはびっくりしすぎて、何にも考えられなかったんだよね。





ポツリポツリと話す私に




怒っていいんだよっ!

マホ、応援するって言ったよね?!

何がこれでライバルね、よ!

おかしいでしょ!

先に好きになったのはユウなんだよ!

なんなんだよ!








リコの勢いに驚くと同時に、私の中にそこまでの怒りはあったのだろうか?

と、少し考えた。









そんな事があっても、放課後には文化祭実行委員の仕事が待っていた。




相変わらずソウタは優しい。

なんでこんなに私に優しいんだろう?







しかし、仲良くなっていく私たちの関係を引き裂くように、マホがソウタの側にいることが増えた。









そして、ある日、実行委員の仕事が終わり、リコとソウタと帰り支度をして廊下に出ると、そこにはマホがいた。






じゃ、と、ソウタが私たちに声をかけ、

マホに

お待たせ。

と言いながら二人で去っていった。








チラッとこちらを見て、ドヤ顔でマホがソウタの後ろを小走りでついていく。









もう、なんだかどうでもよくなってきた。








ソウタのことは好きだ。








でも、あんなに仲良くしていた友達に、こんなドヤ顔される関係になんてなりたくなかった。

それは横にいるリコにも変化をもたらしていた。それも私には大きな絶望を与えた。






あんなに仲良かったマホのことを、いつも睨むようになり、お弁当も長らく一緒に食べていない。

マホに直接、怒りをぶつけたのはリコだった。



私はユウの味方だからねっ!

マホなんて信じられない!









そんな光景を、どこか他人のことのように見ている自分がいた。

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