林間学校での塩見さん

白部令士

林間学校での塩見さん

 高校に入学して三か月、私達は林間学校に引っ張り出された。わざわざの県外、山のなか。二泊三日の苦行である。

 特に親しい友達もいないので、出席番号順という班分けは面倒がなかったけれど。何故か班長になってしまっていた。


 宿舎。照明の足りない廊下を歩く。

塩見しおみさぁん」

 と、呼び止められる。振り向くと、班員の真田さなだ梨奈りながいた。私の肩までぐらいの身長の、可愛らしい娘だ。

「あぁ、真田さん。こんなところに」

 入学して直ぐは席が前後だったこともあり、真田さんとはクラスで一番話をする。

「やっぱり行かないとダメ?」

「班長として、サボりを認めるわけにはいかない」

 二日目の夜。これから肝試しが予定されている。キャンプファイヤーを囲んでダンスなんてことをやらないだけまし、というイベント。部の先輩から聞いた話では、うちの学校は男女の接触に厳しいらしい。肝試しも班行動だから女は女だけ、男は男だけ、だ。

「ほら、行こう」

「はぁい」

 しおらしく応え、私が歩き出すと促すまでもなくついてきた。


 集合場所である裏門前にいたのは、先生が二人だけだった。そのうちの一人は担任で、班員が足りないことは承知していたが時間通りに出発させたという。

「私、班長なんですけど。いなくて大丈夫なんですか?」

「班ごとの間隔は、そんなに開けていないから。ま、大丈夫だろう。だからな塩見、残ったのを頼む」

「残ったの?」

「おおい。さっきのお前、彼女達について行け」

 担任に呼び掛けられ、植え込みの陰から男子生徒が出てきた。

「よろしく」

 と、頭を下げる。私と同じぐらいの身長か。他のクラスの生徒だろう、見たことのない男子だった。

「えぇっ。ちっともよろしくないよ」

 私が口を開くよりも早く、真田さんが不満を述べた。しかし、担任の決定は覆らなかった。

「頼んだぞ」

 担任に一方的な笑みを向けられ、懐中電灯を握らされる。

 やれやれ、だ。


 整えられてはいるが、舗装されていない山道も多い。それをひたすら歩く。

 お堂がチェックポイントになっていて、肝試しコースの最奥だった。そこでなんらかに扮した先生からお札をもらう筈だった。なのに、お堂に着いてみれば先生がいない。

「困ったぞ」

 雰囲気を壊すことになったとしても、通過漏れした生徒がいないか調べている先生がいないとはどういうことか。

「先生、いないねぇ。あ、お札はある」

 真田さんが、お堂の隅を指差した。そこに椅子があり、名簿とお札が置かれていた。

 先生は、いない。

 ふと、先生が直にチェックしているのに、お札を持ち帰る必要性があるのかなどと考えてしまった。

「トイレだろうか」

「やだ」

 私の呟きに、真田さんが反応した。

「ま、いいか。こちらでチェックして、お札を持って行こう」

 名簿に印を入れておこうとしたが、筆記具がない。と、男子生徒にペンを差し出された。お茶でも零したのか名簿の文字がにじんでいたけれど、大体のところに印を入れる。

「そうだ。貴方、クラスと名前は?」

 男子生徒に名前を聞いてなかった。私はともかく、真田さんも特に必要性を感じなかったらしく訊ねていない。

坂松さかまつ。六組」

「そう。六組の坂松くんも通過、と。はい、有難う」

 印を入れた下に書き込んで、坂松くんにペンを返した。受け取りながら、彼は小さく頷いた。


 お堂に着くまでと似たような道をひたすら歩き、スタートでありゴールでもある施設裏門に到着した。私達は、結局どこの班にも追いつけなかった。

「有難う」

 背中から坂松くんに声を掛けられる。

「えっ? 別にお礼を言われるようなことはしていないけど」

 と、振り返る。しかし、坂松くんの姿がない。

「あれっ?」

「えぇっ」

 真田さんと顔を見合わせる。そこに肝試し出発時にもいた先生達が駆け寄ってきて、遅かったじゃないかと心配された。

「坂松くんがいなくなった」

 説明する私に、担任は怪訝な顔を向けた。

「男と一緒に行かせるわけがないぞ」

 担任に笑い飛ばされる。今後の予定を説明し懐中電灯を回収すると、先生達は歩き去った。お札は缶飲料との引き換えに使うとか。

 直ぐに、真田さんが六組の友達を掴まえて訊いてくれたのだが、六組に坂松という男子生徒はいなかった。

               (おわり)

 

 

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林間学校での塩見さん 白部令士 @rei55panta

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