第14話 浮気ダメ絶対
後輩が人間じゃなかった。そうかもしれないと思ってましたよ、ええ。そりゃ自分に変なあだ名付けるわ。きっとあれだ。椛田愛ってのも偽名とかだけど偽名すら覚えさせないための策だな。馬鹿過ぎて目立ってることに目を瞑れば真っ当な手段だ。
いやぁ納得。スッキリした。
……冗談言ってる場合じゃないな。これは一体どういうことだ。
俺の病を根本的に見直す必要がある。
人の顔をしたものを俺の顔に誤認する、というのが俺の見解だ。しかし今朝から漫画の顔は変化しなくなった。俺の顔にならないスーツの女もいたし。
うーん、わからん。
「先輩、ぺぱ子は人間ではないのですか」
「うん。宇宙人だよ宇宙人」
「なんと! 気づかなかったのであります。どうして先輩には分かるのですか」
「だって俺、宇宙人だし。あれ? 知らなかったのか」
「なんとぉ!」
人間だって宇宙人から見たら宇宙人だ。だから俺もお前も宇宙人。
やばい楽しい。
いけないと思いつつも反応がいいのでついからかってしまう。気分的にはあれだな。犬に手品見せてる気分だ。いや、でもほら。嘘ついてるわけじゃないし。
「皆に教えてあげなきゃです。先輩はエイリアンでありますと」
「おいやめろ馬鹿!」
スマホを弄り出したぺぱ子の腕を拘束する。誰だこいつに精密機器なんか与えたのは。絶対持たせちゃ駄目なものだろ。
エイリアンも宇宙人には分かりねぇけどさ、イメージ的に違うだろ。……そういやこの前の遊園地にいたな。オパビニアのびにあくん。あんな感じの口から口が出てるみたいなやつ想像しちゃうだろうが。
「どうして止めるのでありますか!?」
「嘘だからに決まってるだろうが」
危なかった。迂闊に嘘つくもんじゃないな。こいつSNSでばらまこうとしてやがった。管理意識どうなってやがる。プライバシーの侵害だぞコラ。
「嘘だったのでありますか。気づかなかったです」
「いや、気付けよ……。俺も嘘ついて悪かったけど、このくらいは気づけるようになった方がいいぞ。さっきからですとありますが混ざってるのすごい気になるんだけど」
「癖であります! 治りません」
癖か。まあ、癖も病気みたいなもんだしな。病気は治したいもんだ。うん。よくわかるよ。その気持ち。
ん? ていうか待てよ。もしかしてぺぱ子が俺の顔に見えないのって、もしかして俺の病気が快方に向かっているということなのか。言われてみれば俺の顔にならないのは特徴的な人ばっかりだし、そういう人から変化が解けてきたのかもしれない。
そう考えると気分が軽くなってきた。ぺぱ子の言葉遣いが変なことくらい気にもならないな。
「そうか。なら仕方ないな」
「ありがとうございますでありますです」
……やべぇ前言撤回したい。
うっそだろお前。ます、あります、ですってそんな重なるものじゃないだろ。
そういえばさっきからぺぱ子の腕掴んでバンザイさせたままなのに抵抗されないんだけど。いや、別にいいんだけどさ。お前、猫じゃねぇんだからされるがままになるなよ。
ちょっと上に引っ張ってみた。おお伸びる伸びる。猫背だからなコイツ。丸っこいし……な? あれ? なんか胸、でかくね?
まるっこく見えていたのは、まさか胸がでかいくて服が余っていたからなのか。
服はだぼだぼだわ、スカート長いわで気づかなかった。ぺぱ子って細いんだな。え、ちょっと待って。こんな細くて、胸がこれでありますか!?
「先輩、何を息を荒くしているでありますか」
「い、いや。何でもないぞ」
さっと掴んでいた手を放す。すると背筋が丸まり、元の毛玉のぺぱ子に戻った。
やばいちょっとドキドキする。見た目も元に戻った後なのに。
くそ、三日間の強制禁欲生活のせいだ。しかも始まりからの
「そうですか」
おい何で清楚感だしてんだ。そこはそうでありますかだろうが。嘘だろ。言葉遣いと見た目をどうにかしたら化けるぞ。ぺぱ子からモテ子だ。きっと悪い男に騙されるに違いない。
そう考えるとこのままのほうがいいな。圧倒的に馬鹿だけど、誰も寄ってこないことはないだろう。愛嬌はあるしな。
いや、でも。でもだ。試しにちょっと着飾ってみるのはありだよな。
「ぺぱ子。そこで姿勢を伸ばすんだ。そんでちょっと髪の毛まとめてみたらどうだ。熱いだろ」
「はい。まとめるであります」
おお。いいね。ちょっと幼さの方が強いけど可愛い。
ほら、あの芋虫みたいな眉と、か……。
「……」
「どうしたでありますか。先輩」
「いや、あの、その。ごめんなさい」
「なんで謝るでありますか!?」
なんかね、俺の顔になったよ。うん。ぶっさいくだなオイ。
マジかよ。さっきまでのぬか喜びってことか。
どうして今になって俺の顔に変わったんだ。今更過ぎるよな。まさか、まさかだけどぺぱ子のことを本当に犬か何かと見ていたということか。逆説的に人間として見なければ顔は俺にならないのか。見ろ、人がごみのようだ。……人として何か失うような。
「ぺぱ子は顔を出さないほうがいいのでありますか」
「そんなことはないよ。本当に」
「嘘であります。先輩は今嘘をついてるであります!」
なんで今のはわかっちゃうんだよ。
わからなくていいから。そういうのは成長じゃないから。
「ははは、さっき嘘って気づいたほうがいいって言ったから気にしたんだろう。すぐに身に着けようとする姿勢は偉いぞ。でもときに嘘だって思うことが失礼に当たったりするからさ、わかるだろ」
「そうでありますか。わかったです」
ちょろいな。お前本当に将来騙されて傷つきそうで怖いよ。
「てっきり先輩はぺぱ子の胸ばかり見て、顔には興味がないものと思ってたです」
「おおい、何を言ってるのだねぺぱ子くん」
「さっきから目線が胸だったです。鼻息も荒かったであります」
「い、いいかいぺぱ子。男っていうのは大きいの好きなんだ。俺だからじゃないぞ。男はすべからくスケベだ」
「ふーん。やっぱり大きい方がいいんだね。そっかー。ふーん」
「そうなのでありますね。わかったです」
ふう。危ない危ない。またどこかに俺が変態だと広められるところだった。
なんか一つ声が多かったような気がするけ……ど?
「は、春乃!? どうしてここに」
「君が謝りに行くことは知ったから迎えに来ようと思ったのと、私もお礼を言いに来たんだけど、何をしてるのかな」
「べ、べべべ別に何も」
やばい今朝からなんでこんな不運続きなんだ。俺何もやってないのに。
……いや、色々やってるわ。スーツのお姉さんガン見したり、春乃に今度着てくれって頼んだり、エロ本見て奇声あげたり。
違うんだ。ちょっと思春期なだけなんだよ。あと病気なんだ。見逃してくれ。
「こんにちわ。あなたがぺぱ子ちゃん? 初めまして天川春乃です。生徒会もやってるからたまに会うかも、よろしくね。本名はなんていうの」
「こんにちわであります先輩。椛田愛、です。でもぺぱ子って呼んで欲しいです」
「そうなんだね。ありがとうね、この前は彼の図書委員の仕事代わってくれたみたいで」
「いつも図書室いるのでお安いごようであります」
なんか仲良くなってるし。
流石は春乃だな。仲良くなるのはお手の物だ。
「ところで彼に何かされたりしてない? 大丈夫?」
「信用無いなあ。別に俺は何も」
「両手を掴んで上に引っ張った後、ぺぱ子の胸を見ていただけであります。その後顔を見せたらガッカリしていたです」
「……ちょっとお話しようか」
「……はい」
いや、俺も悪かったけどさ。ぺぱ子ももう少し言い方があるんじゃないかな。
この日、春乃が本気で怒るとちびるほど怖いことを初めて知った。
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