第24話 初めての冒険終了
俺達は今、タンナーブに向け歩を進めている。
東通村で剣児の爺さんに会い、剣児は新しい剣を貰った。
中々の業物だが、爺さんが言っていたように今はかつての輝きを潜めているようだ。
剣児がこの強そうな剣を装備したということは、能力値の物理攻撃力の数値が上がっていると予想した。
俺がもしこの能力値の仕組みを作った神ならば、強い武器を装備したらその分攻撃力が上がる仕組みを作るはずだ。
経験値の概念を教えてもらった時の、この俺が神ならばの
人間界の理不尽の仕組みが徐々に分かってきたからな。
「剣児、もしかしたら能力値上がってるんじゃないか?」
俺は今思いついた自分の考えが、さも合っているかのように剣児に聞いた。
「えっなんでだ?おらレベルアップしてねぇぞ」
「いや、爺さんが使っていた武器を変えたからさ。今までよりも強い武器に変えたら攻撃力も上がるだろう?」
「あっはっは!何ですかそれー!出野さん夢見すぎですよ!」
この会話を聞いていたのか、横からゆうなが水を差してきた。
「そうじゃないのか?」
俺の不満ともとれるような顔を見て、ゆうなも少し表情を曇らせながら返す。
「それじゃあ冒険者になりたての人でも、その強い武器を使ったらめちゃくちゃ強くなるってことになりますよね?」
「まぁ、そうだな」
「そんなの理不尽じゃないですか?」
ゆうなの、いやこの恐ろしい仕組みを利用して理不尽に強くなっている人間の口から、理不尽という言葉が出てきた。
いやぁ驚いたよ、俺は。
君達人間という種族は、レベルアップという能力が強化されていくという仕組みを使い、体力の数値化により後どれだけ攻撃を食らえば死ぬのか計算でき、おまけに死にそうになったら一瞬で回復するときた。
これだけ理不尽に理不尽を重ねているのにも関わらず、強力な武器を持って能力値が上がるとなったら「それは理不尽じゃないか」だと!?
俺がおかしいみたいに言うんじゃないよ、おかしいのは君達だよ。
俺は
そんな俺の表情に気付きつつ、ゆうなは溜め息混じりに続ける。
「あのですね、武器には攻撃力という概念は無く、代わりに武器そのものの耐久性で良い武器か悪い武器かが決まります。その、出野さんが言う攻撃力を持った武器がどれだけ凄くても、技を出す時に耐えられず壊れてしまったら、そんなの武器とは言えませんよ」
俺は顎に手を当て、少し考えた上で納得する。
「あー、確かにな」
仮に剣児と爺さんが手合わせをしていた時の木剣が攻撃力10だとしよう。
爺さんがあのまま木剣で
木剣自体は攻撃力10なのに、ある特定の攻撃をすると攻撃力は0になる。
これは確かにおかしい。
いや、違う、これは武器が壊れた場合の話だ。
仮にどんな技でも壊れない木剣があると仮定して、その木剣の攻撃力が10で、爺さんの持っていた仏の剣が攻撃力100だとしたら技を繰り出した時の威力は違うんじゃないか?
木と鉄だぞ?
そうだ、絶対にそうだ。
決して壊れない木剣があれば、それを根拠に、この俺が説く武器依存での攻撃力変化理論の正当性にゆうなは気付くはずだ。
「待て、ゆうな。俺はやはり譲れない。どんな技を繰り出しても決して壊れない木剣があったとして、そ
「そんな都合の良い木剣など存在しません」
俺の話を遮り、ゆうなは言い切った。
でも俺は負けない。
もう負けたくない。
「でもな、木剣で魔物に技を出すのと、鉄の剣で魔物に技を出
「命をかけているのに木剣を持って旅に出る冒険者などいません」
「そ、そうだな」
せ、正論だ。
俺はこの後現れたダブルヘッドバイソンやあばれウルフに向け、鬱憤を晴らす意味でゴブリンパンチを連発した。
スライムには八つ当たり気味に鉄拳制裁をし、最初のように少し手を痛がるという茶番劇をしつつ歩を進めていった。
道中、また適当なところでテントを広げ一夜を過ごし、翌日の夜には無事タンナーブに帰ることができた。
◇◇◇◇◇◇
「はぁー、ようやく戻ってきましたね」
「おら疲れたー」
タンナーブに戻ると辺りは暗く、もう人々は眠りについている時間であった。
帰ってきたら柿ピーを買おうかと思っていたが、この様子じゃ露店が閉まっているのは明らかだ。
俺達は町の中央に向け歩きながら話す。
「剣児君のお爺ちゃん元気そうで良かったね」
「うん……。ゆうな、出野さんごめん」
剣児が立ち止まり、俺とゆうなに向け勢いよく頭を下げた。
「どうして?」
「おら仲間に入れてもらったっていうのに、爺ちゃんの事が心配で村に残るって言ってしまったからよぉ」
少なくとも俺は全然気にしていない。
一瞬「えっ!?」って思ったけど、自分が決めたことだ、他人にとやかく言われる筋合いはないからな。
「全然いいよ。結局こうして今剣児君がいるからさ」
「うん、ありがとう」
少し笑みを見せながらゆうなと剣児は会話をしていた。
俺もつられるように笑う。
んー、何だかこの感じ、俺が魔王だった時を思い出すなー。
何だかんだで、配下と笑って過ごしてたもんなー。
「改めて、よろしくね、剣児君!」
「よろしくなー剣児」
「うん、よろしく!」
剣児は元気よく返事を返した。
また歩き出すが、これから魔王討伐に向けてどうしていくべきなのか分からない俺はただ黙っていた。
そんな中、ゆうなが口を開く。
「今はレベルも低いし、魔王と戦うにはまだまだだから、これからもっともーっとレベルを上げて強くなって、そして仲間を増やしましょう!出野さんが言ってた100人の仲間はちょっとあれですけど、増やせるだけ増やしましょう」
ゆうなが俺の情報を小出しにすると、剣児が食いつく。
「出野さん、仲間100人って!やっぱ特別感出てるよなぁ」
「んー、まぁな(キリッ」
俺の表情に二人は笑った。
なんだか、魔物と人間の線が消えていくように。
「じゃあ旅の疲れもあるから、明日明後日と二日間ゆっくり休んで、次の日に冒険者ギルド10時に集合でどうでしょう?仲間探しをしつつ、見つからなければレベル上げといった感じで区切りをつけて」
「了解!」
「そうするかー」
ゆうなの提案に俺と剣児は乗っかり、程無くして解散となった。
「じゃあまたなー」
二人と別れた俺は、タンナーブ外れにある大きな木に向かった。
タンナーブ初日に寝床にしていた場所だ。
ここに人間が来ることはまずないだろう。
木に登り、適当なところで横になる。
俺は体を支える一本の線があればどこでも寝れる。
「三日後の10時か」
俺は体内時計を三日後の9時に合わせ、結界を張りそのまま眠りについた。
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