第16話 レベルとは
「ゆうな、村まで行くのはいいとして、そのレベル上げっていうのは何だ?」
「えっ?」
俺は知らない単語があったので純粋に聞いてみた。
レベルというものを上げるという事は何となく予想がついたが、まずレベルとは何ぞやというところであった。
「えぇーっと、レベル上げの前にレベルという概念はご存知ですか?」
「おい、剣児知ってるか?」
俺は東通村出身である剣児も知らない可能性があると踏んで、そのまま横流しに聞いてみた。
「当然だべな。出野さん知らねぇの?」
「えっ?村出身のお前でも知ってるような基本的な知識なのか?」
またこの流れがきた。
俺は元々魔王だからなと言えたらどれだけ楽なことか。
人間に干渉しなさすぎて、全然話についていけない俺は人間界の当たり前が本当に分からない状態だ。
ゆうなの方を見ると、あの職業神殿で話した時のように、頭悪い子に言い聞かせるモードに入っているような目付きをしていた。
「出野さん、まずレベルってのは1~99までの数値で表すことができて、その数値が大きくなればなるほど各能力が高くなっています」
「てことは俺が仮に強かったとして、俺はレベル99なのか?」
「黙って聞いてください。冒険者登録をして尚且つ職についていないとレベルという概念は存在しないというのが共通の認識です。ですので無職の人はどう頑張ろうとレベルは上がりません。そもそもレベルという概念がないのですから」
「てことは俺はレベル99じゃな
「黙って聞いてください。全ての人は最初は必ずレベル1の状態ですので、出野さんも職に就けばレベル1から始まります。今現在は無職なのでレベル0と言っても過言ではありません。何らかの職に就き、これから魔物を倒すとレベルは徐々に上がっていきます」
ちょっと次元が違いすぎてついていけない。
今以上に強くなる可能性があるってことか?
嘘だろ?
「待て待て!さっきの話だと、そのレベルが上がると能力も上がるって言ってたけど、俺はこれからもっと強くなるのか?」
「はい」
ヤバい、ヤバすぎる。
今でも向かうところ敵無しの状態の俺が、ここから98段階もパワーアップするのか?
人間ヤバい、職ヤバい。
過去の魔王共はよくこんな戦闘民族と戦争をしていたな。
「で、レベルってどうやったら上がるんだ?」
「魔物を倒すことで経験値というものが得られます。その経験値がある程度溜まるとレベルは上がります。レベルが上がる時は感覚で分かりますが、極度の興奮状態では気付かない場合もあるそうです。そんな時は冒険者の書を見ると現在のレベルを確認中することができます」
恐ろしい仕組みだ。
人間界にそんな仕組みがあるとは思わなかった。
怪我を治癒する魔法やらレベルの概念やら、本当に凶悪な生き物だ。
俺達魔物は生まれ持った能力があるからこそここまでやれてこれたが、もし人間に我々と同じような能力が備わっていたらと考えると末恐ろしい。
とにかく俺は興味本意でそのレベルとやらを上げてみたい。
レベルが上がるという感覚を体感したい。
「というか今お伝えした内容は冒険の書に書かれてますよ。ほら」
ゆうなは巾着から自らの冒険者の書を取り出し、ペラペラと捲りはじめた。
「おい、さっき最初のページにあった数字がいっぱい書いてるページは何だ?」
冒険者の書の最初のページ左側に書かれていた内容が気になった。
確か俺の冒険者の書の同じページには名前くらいしか表記されてなかったはずだ。
「えっ?ここですか?」
そこにはこう表記されていた。
――――――――――――
名前:小笠原 ゆうな(年齢17歳 性別 女)
レベル:3
職業:勇者
職業レベル:1
HP:383/383
MP:40/40
物理攻撃力:20
物理防御力:23
魔法攻撃力:11
魔法防御力:22
素早さ:15
運:8
使用可能魔法一覧
―
使用可能特技一覧
―
――――――――――――
「何これ?」
「これは所有者情報といって、この冒険者の書の持ち主の能力値が表示されているページですよ」
「俺のにはそんな数字書いてないぞ?」
俺は冒険者の書を取り出し、所有者情報のページを確認した。
やはり名前と年齢、性別しか書かれていなかった。
最初見たときは気付かなかったが、左のページには名前等が書かれてあり、右のページは大きな円が描かれている。
なんの円だ?
「えっ?まだ能力値の反映やってないんですか?というか、年齢が?歳になってますけど冒険者登録の時にふざけたんですか?」
「別にふざけたつもりもないのだが、年齢聞かれたけど、何年生きたのか曖昧だったから分からんと答えただけだ」
冒険者登録の時に受付の男から聞かれていたのは確かだが、寿命の短い人間と違って何百、何千年と生きる俺達魔物は自分の年など覚えちゃいない。
ゆうなに年齢を聞かれた際に流れで25歳ということになったが、冒険者登録の後の話だからな。
「で、その能力値の反映とやらはどうやるんだ?」
「予想以上に冒険者登録時の説明を全然聞いてなかったんですね」
「まぁ説明長かったしな」
「じゃあ手本を見せますね」
ゆうなは俺が持っていた冒険者の書をひょいっと手に取り、左手の親指と薬指で器用にページを開いたままの状態にした。
「俺の本だけどお前がやっていいのか?」
「後から修正はできますので」
そう言って俺の冒険者の書、所有者情報ページ右側の円に空いている右手をあてがった。
すると、名前は出野ハーのまま変わらず、各項目と数値が自然と浮かび上がってきた。
――――――――――――
名前:出野 ハー(年齢?歳 性別 男)
レベル:3
職業:勇者
職業レベル:1
HP:383/383
MP:40/40
物理攻撃力:20
物理防御力:23
魔法攻撃力:11
魔法防御力:22
素早さ:15
運:8
使用可能魔法一覧
―
使用可能特技一覧
―
――――――――――――
「おい、これ本当に俺の情報か?さっき見たお前の情報とそっくりだが」
「名前と年齢、性別は変えられませんが、それ以外は今の私の能力値です。私がやったように所有者情報のページを開き、その右ページの円に手を当てると、書がその手から出る僅かな魔力を分析し数値が浮かび上がってきます。更新しない限りこの表示は消えることはありません」
「す、すごいな」
俺が感動していると、もう一人感動しているやつがいた。
「おーっ!すんげーっ!おらもやってねぇしてやってみる!ゆうなこれでいいのがぁ?」
「そうそう、これをこうやってね、こんな感じでね……」
ゆうなが剣児に丁寧に指導している中、俺もやってみる。
こう開いて、右手をこの円に当ててと。
俺の魔力を感じとり、項目は変わらず数値がどんどん書き換えられながら浮かび上がってきた。
――――――――――――
名前:出野 ハー(年齢?歳 性別 男)
レベル:―
職業:無職
職業レベル:―
HP:1,050,000/1,050,000
MP:35,000/35,000
物理攻撃力:2,250
物理防御力:2,310
魔法攻撃力:1,890
魔法防御力:2,490
素早さ:2,110
運:90
使用可能魔法一覧
火属性:チャッカ(小) ~ ドゴウゴウ(極大)
水属性:チョロ(小) ~ ドバーン(極大)
氷属性:バリ(小) ~ バリジャッキン(極大)
雷属性:ピリ(小) ~ ドンバチン(極大)
土属性:ゴゴ(小) ~ ズゴーン(極大)
風属性:フワ(小) ~ ビューン(極大)
闇属性:ヌン(中) ~ ヌラリアン(極大)
即死:スット(小) ~ アトカスット(中)
毒:ジュク(小) ~ ジュクジュ(中)
麻痺:ギチ(小) ~ ガチギ(中)
飛行:プカン
使用可能特技一覧
一刀両断/
――――――――――――
……や、ヤバい、桁が違いすぎる!
ゆうなより絶対に強いってのは確信していたがこれ見られたら多分ヤバいやつだ。
俺が人間じゃないとすぐバレる。
今までの信頼関係が崩れてしまう。
勇者の力を借り、魔王城に攻め入るという構想が水の泡となってしまう。
しかも何だこの魔法や特技の名称は。
今まではっ!とか、ふんっ!とか適当に使っていたが、ちゃんと名称があるとは知らなかったぞ!?
「出野さんどうでした?どんな感じかちょっと見てみたいです」
その声に驚き、俺の手から書が舞い上がった。
宙で踊る書を慌ててキャッチし、勢いよく書を閉じた。
目の前のゆうなは頭に?が浮かんでいるような顔でこっちを見ていた。
「まぁ、あれだな。なんつーか、あれだな」
動揺しすぎて何も言葉が出てこない。
この窮地をどう乗りきろうか。
そう考えていると、剣児が起死回生の一言を発した。
「もしかして、出野さん、自分が思ったより強
「あー、そういうことね。あれだけ強いって言ってたのに案外普通すぎて恥ずかしくて見せられないとかですかー?」
ゆうなも剣児の言葉を受け、半笑いで聞いてきた。
「ま、まぁ、そんなとこだな」
「じゃあ今は無理して見ませんけど、レベルが上がったりしたら改めて見せてくださいね」
「お、おう」
胸をほっと撫で下ろした。
でも待てよ、もしかして俺の数値はそこまで高くない可能性もあるぞ。
ゆうなも今は攻撃力20とかだけど、レベル5とか10になったら一気に攻撃力が2,000とか超えてくるとかも考えられる。
そうだったとしたら全然見せられる範囲だ。
よし、聞いてみよう。
「参考までに聞きたいのだが、レベルが上がるとどの程度能力値は増えるんだ?」
「私、博物館に飾ってあった歴代勇者の冒険者の書を見たことがあるんです。その中でも初代勇者【
鼻息を荒くしながら話すゆうなを見ていると、俺がどれほどまでに異常なのかが痛いほど伝わる。
ほとんどの能力値がそのぶっちぎっていると言われている初代勇者のレベル99の倍以上あるわけだ。
HPとMPとやらに関しては勇者のそれが鼻くそに見えるほどだ。
異常の中の異常を凌ぐ異常。
魔王やってた俺って、こんなに強かったんだーなんて呑気に言っている場合ではない。
そしてここから更に98段階強くなっていく計算だ。
「そ、そうだったのか。さすがに歴代の勇者は強いな」
「勇者様すんげーなぁ」
「じゃあ、剣児君、明日朝9時に職業神殿集合ね」
「わがった!じゃあおらはみんなに勇者の仲間になったって報告してくる!今日はありがとうな!じゃあね!」
剣児と明日の約束を交わし、俺とゆうなは来た道を戻っていった。
あー、聞くの忘れたけど後でHPの横に書いてあったMPについて聞こうっと。
俺にはまだまだ知らないことが沢山ある。
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