第15話 剣士 古川剣児
俺とゆうなはギルド内の仲間募集窓口に足を運んだ。
窓口には小さな眼鏡をかけた華奢な男が座っていた。
「あのー」
「いらっしゃい。今日はどのようなご用件で?」
窓口の男はそう返すが、顔も上げず、熱心に本を読んでいるようだ。
「仲間を探しているんですが」
「あんた勇者かい?ってゆうなちゃんじゃんか!」
男は顔を上げすぐに読んでいる本を閉じた。
「ゆうなちゃんその横にいる男はひょっとして仲間か?」
「一時的ですけど……、はい」
「やっと仲間ができたんだね!良かったじゃん!紹介しても紹介しても悉く断られてるのを知ってるからこそ、本当に嬉しいよ!で、今日も紹介希望?」
本当に嬉しいんだろう、先程までの顔とは打って変わり明るい顔になっていた。
「そうです。仲間が一人増えましたから、今までよりは少し希望が持てます」
「俺もそうだと思うよ!今日はどの職の冒険者を希望だい?」
「今日は……、とりあえず新着情報をもらおうかな」
「オッケーオッケー。今日は……」
男は分厚い名簿を取り出し、目を通していく。
この本にどれだけの冒険者情報が載っているんだろうなどと考えていると、男が口を開く。
「いつもどおりほぼ全部の冒険者が男勇者希望だけど、一件だけ希望なしの人がいるね。剣士だ。そこの兄さんも剣士とか武術家っぽいけどバランス的に大丈夫かな?」
「この人はまだ職を決めてないので、全然大丈夫ですよ」
「おー、珍しい!」
そう言い男は俺の顔をじーっと見た。
「どうした?俺の顔に何か付いてるか?」
「いや、よく見たらさっき鎌田と揉めてた人だなぁと思って。強い勇者を探してるんだろ?鎌田は自分では強いって豪語してるけど、実際は大して強くないから仲間にならなくて良かったなぁってさ。それに比べ、ゆうなちゃんは強いよ!力じゃなくて心がね!勇者たる者、心が強くなければ真の勇者と呼べない!」
「ちょっと恥ずかしいのでやめてくださいよ」
ほう、伊達に色んな冒険者を見てるだけあるな。
勇者とは決して力がある者とは限らないと俺も重々承知している。
あの日見た幼き勇者がそうであったように。
「ごめんごめん、つい熱くなってしまった。で、話は戻るんだけどその剣士の冒険者どうする?紹介しようか?」
「あ、よろしくお願いします!」
男はカウンターに名簿を開いて見せ、一人の冒険者情報を指差した。
「この子だ。少し遠くの東通村出身の子でさ、キリッとして中々良さそうな子だったよ。ちょっと訛りが強くて何言ってるか分からないこともあったけどね」
俺は東通村とキリッという言葉に引っ掛かった。
東通村で出会った爺さんには確か孫がいると言っていた。
でもまさかこんなところで都合よく出会うか?と思ったが、直ぐ様それはないなと否定する。
そんな都合良く出会いと出会いが繋がるわけがあるまい。
「じゃあ交渉に行ってくるので詳しい情報を下さい」
「あいよ!この子はね……」
◇◇◇◇◇◇
俺達はギルドから紹介された【
ギルドでの紹介とは、対象者の名前や住まいなどの基本情報を教え、交渉に関しては全て冒険者同士でお願いしている方針を取っている。
以前は全てギルド側が全てを請け負っていたが、新たな魔王誕生により、冒険者の数が劇的に増えたから手が回らなくなったそうだ。
古川剣児は城下町の外れの方に、東通村から逃げてきた村人達と生活を共にしているとの事だ。
「おりゃ!はー!」
その場所に近付くと、一際大きな掛け声が聞こえてきた。
声のする方へ向かうと、一人で木に向かいボロボロの剣を降る男がいた。
布切れを纏い、まだ成長段階であろう体つきをしたボサボサ頭の彼は、目の前の木を相手に剣の修行をしているようだ。
「おー。あれが古川剣児か?」
「見せてもらった似顔絵とそっくりだからそうだと思います」
探していた古川剣児だと確信し、剣を振るっている彼の後ろからゆうなが声をかける。
「こんにちは!」
「こんちは!届けもんだったら家に誰かいるど思うしてそのまま入ってけろ」
「えっ?」
「や、だから、家に誰かいるしてさ。おらは今剣の練習をしてらしてさ」
俺とゆうなは顔を見合わせた。
窓口の男から少々訛りが強いと聞いていたが、少々どころじゃないとお互い同じ事を思ったからである。
何となく意味は通じるが、同じように喋ろと言われても多分できない。
ゆうなは笑いのツボを刺激され、必死に笑いを堪えている様子だった。
俺の体を前に押し、代わりに彼と話せという合図を送る。
「今日は古川剣児という剣士を探しにきた」
「それおらだ。ギルドから聞いで来てくれたんだが?」
自分に用があると分かると、剣を振るう手が止まった。
「そうだ」
「やぁ、こったに早く来ると思わねがったなぁ。おらまだ魔物と戦ったことねぇし、鉄の剣もまだ練習中だけどいいんだべが?」
練習中にしては良い太刀筋をしているな。
俺は素直にそう感じた。
「これから強くなりましょ!私はゆうな、こっちは出野さん、魔王討伐に向けて今仲間を探してるんだ。剣児君が良ければ仲間になってほしいなって」
いつの間にか平常心を取り戻したゆうなは彼に話しかけた。
こいつは年下相手だとお姉さん気取りするタイプか。
ギルドで見せてもらった冒険者名簿には、彼が15歳と記載されていたのでゆうなからしてみれば二つ年下である。
「もちろん(キリッ」
「やった!これからよろしくね!私のことはゆうなでもゆうなちゃんでもゆうな姉ちゃんでも何でも大丈夫だからね」
ゆうな姉ちゃんの部分だけ強調して言っていた。
「よろしくゆうな、出野さん!」
それを聞いたゆうなは少し肩を落とした様子だった。
このやり取りで、俺は確信した。
剣児が「もちろん」と返答をした時に見せたキリッとした顔は、東通村の爺さんがしていたのと同じだ。
剣児は間違いなくあの爺さんの孫だな。
「よろしくなー。剣児、一ついいか?」
「なんだべが?」
「俺がこのタンナーブに来る前に、東通村に立ち寄ったんだ。その時村にいた爺さんが、孫にいつも水汲みを頼んでたって言っていたんだが、お前の爺さんか?」
「おー!それおらの爺ちゃんだな。外にはあんまり出るなって言ってたんだけどなぁ。爺ちゃん元気にしてたか?」
大方予想通りだった。
「やはりか。元気だったぞ」
「それなら良かった。こっちに来てずっと気になっていたんだ。爺ちゃんにこっちに来るようなんぼ説得しても喧嘩別れした爺ちゃんの兄が戻って来るかもしんねぇしてって絶対ぇに村に残るって聞がねがったもん」
爺さんの話をするときの剣児はいくらか明るい表情だった。
魔物に襲われず、今も元気に生活をしている様子が分かり一安心したのだろう。
「そうだったのか。まぁ村には他の爺さん婆さんがいるみたいだし、大丈夫か」
「なーんも、爺ちゃん以外みんなこっちに来てるから村には爺ちゃん以外誰もいねぇぞ?おらも村に残りたかったけど、爺ちゃんにこっぴどく追い払われたから結局こっちにきたんだけど本当は心配で仕方ねぇんだよなぁ」
ん?爺さんは村にまだ人がいるような感じで話していたような。
俺は村を出るときに、魔物が近付かないように、そして魔物が入れないように強力な結界を張っていた。
これを伝えて安心させたいが、俺が張ったとなると色々と詮索されそうな気がするのであえて作り話を話す。
「そうか。でも安心しろ。俺が村に来たころ、ちょうど冒険者が一人いて、結界を張ったそうだ。魔物は入ってこれないから絶対に爺さんは襲われることがないって言ってたぞ」
「そうなのか。でもおら気になるな」
んー、どう説明しようか。
そう思考を巡らせていると、隣にいるゆうなが口を開く。
「じゃあレベル上げも兼ねて一緒に村を見に行きましょうか」
「うぉー、ありがてぇ!村の様子を見ればおらも安心して冒険に出れるな」
レベル上げ?
またゆうなの口から知らない単語が出てきた。
この後、俺は人間界における最強の仕組みを聞かされる事となる。
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