第14話 あの日の惨劇

 俺とゆうなは冒険者ギルドに来ていた。

 目的はもちろん仲間探しだ。

 ギルドでは冒険者の紹介等も行っている為、その中から仲間候補を探し出そうと考えた。


「外で見た看板もそうだったけど、やっぱりみんなパーティを組みたがるんだな。そもそも、一人で魔王討伐をしようという奴はいないのか?」

「そういうわけじゃないんですけど、どうやら魔王に挑むには勇者じゃないと挑めないらしいんです。だから勇者適性のないほとんどの人はまず勇者を探しているんです」

「勇者じゃないと挑めないって、どうしてそんなことをお前が知ってるんだ?」


 俺は敗北を味わったあの日、直接言われたから分かっているが、なぜ人間がそこまで知っているのか謎だった。

 

「数ヶ月前、タンナーブ城に魔物の遣いが現れたのは知ってますよね?」

「知らんぞ」

「えっ?知らないんですか?じゃあ教えますね。あの日、私は……」



◇◇◇◇◇◇



数ヶ月前。


「ゆうなちゃん、今日は新鮮な魚が入ったよ!なんなら知り合いから貰った餅もあるが、どうだい買ってくかい?」

「大丈夫です。今日は野菜を買いにきただけですから」


 私はその日、市場で食料の調達をしていました。

 そしてそれは突然やってきました。


「なんだなんだ?鳥の集団か?」


 一人が空を指差し、私もつられて見たのですが、確かに最初は鳥の集団かと思ってました。

 でも近付くにつれて、鳥とは異なる種類だと気付きました。

 それが翼の生えた魔物だと。


 みんなただならぬ気配を察知し恐怖でその場を動くこともできず、固まっていました。

 私もその時は勇者になる前だったので、みんなと同じく空を飛ぶ魔物を震えながら見ることしかできなかった。

 幸いと言っていいのか、市場の上空を通りすぎ、魔物の群れは城へ向かっていった。


「ど、どうして魔物が城に?」


 過去に取り決めとなった魔王軍との条約があったので、そこからはタンナーブに魔物が現れることがなかったのです。

 そんな中突然現れた魔物に不安を覚えつつも、みんな魔物の行方を目で追っていた。

 それは城の真上で進行を止め、何匹かの魔物が城へ向けて降りていくのが目に入りました。


 直後、城の方からドォォォンという轟音が響き、人々は慌てるように城の方から逃げてきました。

 皆が城から距離を取る中、気付いたら私は城に向かって走っていました。


 私の父が城の傭兵をやっていたから。


 別に私が行ったからと何かが変わるわけじゃないのは分かっていたけど、父が心配でならなかった。


 城からやや離れた場所に着くと、何名かの傭兵達が数匹の魔物に殺され横たわっていたのが目に入った。

 近くには瀕死状態の傭兵達も多数いました。

 その中に父の姿はないか私は必死に目を凝らしました。


 父は……、父は死んでいた。


 私は父の元へと駆け寄ろうとしたが逃げずに残っていた周りの人に止められました。

 上空には優に百を越える魔物が空を旋回する中、地上にいた何匹かの魔物は城へ入っていきました。

 私は何も出来ず、うずくまって泣いていた……。


 数分後、魔物達は城から出てきた。

 城から出てくるなり、上空にいた魔物達が降りてきたようで周囲から「逃げろ逃げろ!」と叫び声が聞こえてきた。

 誰もが本能で危険を察知し逃げ惑う中、私は恐怖で足が動きませんでした。


「お嬢ちゃん!早く逃げなきゃ!」


 誰かが私にそんな声をかけてくれるも、本当に足が動かなかった。

 私も父と同じように……、と半ば覚悟を決めていたら救世主が来た。


 現最強と呼ばれる勇者パーティ。


 魔法使いの上級職である大魔法使いの【二本柳まほ】さんが、魔物の群れを火属性魔法で焼き払い、ほとんどの魔物が一瞬で息絶えた。

 煙が立ち込める中、運良く生き残った魔物がまほさん目掛けて爪で攻撃を仕掛けてきた。

 盾使いの上級職である盾守たてもりの【杉本まもる】さんがそれを大盾で防ぎ、剣で凪ぎ払い一撃で魔物は息絶えた。

 気付いたら先程まで傷を負い動くことも儘ならなかったはずの傭兵達が、まほさんの魔法で瀕死状態の魔物達に止めを刺していました。

 僧侶の上級職である賢者の【古川賢太郎】さんの魔法により回復していたからだとすぐに気付きました。

 私は目の前で繰り広げられていた動きに、勇気に、戦いに、涙が止まったことすら忘れ視線が釘付けになっていました。


 まほさん、守さん、賢太郎さんの登場により形勢逆転かと思われました。

 しかし多くの魔物が地に伏す中、一匹だけ魔物が残っていた。

 その最後に残った大きな翼の生えた一匹の魔物には傷一つ与えられていなかった。

 その魔物は他の魔物と違い、誰がどう見てもこの襲ってきた魔物の中で一番強いと感じられる異様な圧があったのを記憶しています。


「我は魔王グレンヴァの配下であるヴァーナインだ。人間にもこのような強さを持つ者が残っていたとはな。しかし、我はその転がっているような劣等種とは違う。我一人で十分。ここで皆殺しだ」


 自らをヴァーナインと言っていたその魔物は、手に魔力を溜め、空高く飛ぶ為なのか、膝を曲げ姿勢を低くした。


「ほほう。わしらの事を少し舐めすぎじゃ。のう英雄・・・・

「んぁ?」


 ヴァーナインに向け賢太郎さんはそう言った。

 英雄・・というの名が出てきた時に目線が後ろに外れたのが気になったのか、ヴァーナインは低い姿勢のまま振り向いた。

 いつの間にか背後に立っていた男性は、表情一つ変えずに頭上から剣を振り、ヴァーナインは真っ二つになった。


 勇者の【津島英雄】さんだ。


 弱い魔物を倒すように軽々と最後の一匹を倒す姿は、まさに現代における最強の勇者でした。


「皆の者、怪我はないか?遅れてすまない。私は先に国王の安全を確認してきた。少し怪我をしていたようだが無事だった。もうここには魔物は一匹たりともいない。安心してくれ」


 英雄さんはそう言って皆を落ち着かせました。

 安心した途端、また涙が溢れてきました。

 私は城の前で横たわっている父へと駆け寄り、息もせず鮮血に染まった父の元で、人目もくれず泣きじゃくりました。

 泣いている私に、英雄さんは近付き膝をつきました。


「君の父さんかい?」


 私は無言で頷きました。


「私がもう少し早くこれたら助けられていた。すまない」


 英雄さんがそう声をかけてくれて、私は精一杯否定した。


「……ううん。……悪いのは魔物だから」

「君の父さんは勇気があった。あの傷は私が最後に倒した魔物の攻撃を受けた傷だ。おそらく父さんはみんなを守るためにこの中で一番強い魔物に一人で立ち向かっていったんだ」


 父の勇姿が目に浮かび、枯れたと思った涙がまた溢れ出しました。


「君の父さんの仇は必ず討つ」


 英雄さんは私の手を握りそう言うと、仲間の元へと歩いていきました。

 そして城から傭兵を従えた国王が出てきました。

 国王は出てくるなり声を張り告げました。


「魔王ハーデスが消滅し、新たに魔王グレンヴァが誕生した!この事により今まで守られてきた魔王軍との停戦は解除された!余は皆の命を守るべく、魔王城にいる魔王グレンヴァと直接話をしたいと申し出たが、勇者でなければ魔王城に入れないとの事で叶わなかった!これは事実上、人間と魔王軍との全面戦争が始まることを意味している!戦う勇気のある者は、是非とも国の為に力を貸してほしい!我々の平和を取り戻す為、魔王を討伐せよ!」


 そう宣言し、今まで続いてきた平和は突然終わりを告げました。



◇◇◇◇◇◇



「……という事があったんです。なので、魔王討伐パーティには必ず一人は勇者がいないと成り立ちません。勇者でないものは魔王への挑戦権すらないからみんな必死に探してるのです」

「ほう。国王っていうのが人間の王なのかー」

「どんな感想ですかそれ!」


 こちとら人間王と呼んでいたからな。

 しかし、噂どおり英雄さんは強そうだ。

 早いところ見つけ出して仲間に入れてもらおう。


 俺はゆうなの悲しい過去よりも、英雄さんの活躍に心動かされたのであった。

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