第13話 答え

「俺は……。今のところ特に就きたい職はない」


 それが答えだった。

 勇者適性があれば今すぐにでも就きたかったが、それがない俺はこれと言って就きたい職がなかった。

 強いて言うなら???かな。

 俺の返答を聞き、ゆうなが一つ提案をしてきた。


「そうですか。これだけ適性があったら悩みますよね。では仲間探しをしてから改めて決めるというのはどうでしょう?」

「仲間?俺とお前の2人でいいじゃないか」


 なんなら俺一人でいいけど。


「えっ?ダメですよ。魔王に挑むにはバランスが悪すぎます。みんなで協力をしないと倒せないです」

「そうなのか?別に強いやつが一人いればいいと思うけど」


 魔王時代の俺にも配下はいたが、仲間と一緒に戦うという概念はなかった。


「ダメです。敵が多ければどうするんですか?」

「魔法で一気に倒せばいい」

「魔法が効かなかったらどうするんですか?」

「剣で一気に凪ぎ払えばいい」

「傷付いたらどうするんですか?」

「一度撤退して寝ればいい」

「えっ?」

「えっ?」


 このやり取りのどこに疑問が浮かぶ場面があったのか分からなかった。

 基本傷なんてすぐに治るもんじゃないし、自然に治すしかないだろと俺は鼻で笑うしかなかった。

 さてはこの女、戦いを知らないな?

 ここで俺は余裕と言わんばかりに残り僅かの柿ピーに手を出した。


「寝るって、その間魔物が攻めてきたらどうするんですか。そういった場合は回復魔法で傷を治すが正解ですよ」

「えっ?傷を治す魔法?そんなのがあるのか?」

「常識ですよ。HPを回復すれば傷も治りすぐに動けますから」


 エイチピー……、柿ピーを売っていた市場で耳にした言葉だ。

 柿ピーが美味かったから、エイチピーも美味いだろうと思っていたがなぜ今?


「エイチピー?この柿ピーに似た食べ物のことか?しかも人間はそれに何か特別な魔法をかけて食べると傷が治るのか?」

「はぁ……。人間は・・・ってあなた人間ですか?HPは食べ物じゃないですよ。回復魔法は傷付いた人の身体そのものに使用します」


 俺は人間という設定をすっかり忘れていた。

 今のは非常に危なかった。

 少し間違えば疑われる可能性がある……、気を付けなければ。


「……コホンッ。俺は冒険者になりたてでよく分からないのだが、そのエイチピーってのはなんだ?」

「HPとは体力のことです。数値化されていて、個人個人で数値が違います。その数値が攻撃を受けて0になると死にます」


 なぬっ?

 人間界にはそんな画期的なものがあるのか!

 俺は目から鱗だった。


「じゃあさじゃあさー、死にかけてもその回復魔法を使えば瀕死の状態から動けるようになるのか?」

「そうです」

「ヤバっ」


 遠い昔、俺が魔王になる前、話でしか聞いたことのない勇者との争い。

 その中で人間と戦った魔王軍は勇者やその仲間達に致命傷を負わせ勝利を確信したが、不可解な事にそれが幻だったかのように一瞬で彼らの傷が癒え、立ち向かってきたという逸話があった。

 俺はその逸話を馬鹿馬鹿しいお伽噺の一種かと思っていた。

 弱き魔王軍が己の失態を後世に伝える際の、逃げ口上だと。


 彼女の話が本当なら人間はゾンビじゃないか。

 人間強すぎるだろ。

 俺はこの世界における理不尽というものを知ってしまった。


「その回復魔法とやらを習得する職はなんだ?」

「僧侶で

「じゃあ僧侶になる」


 俺は食い込みで意見を述べた。

 そこに彼女は賛同するわけでもなく、新たな可能性を持ちかける。


「でも僧侶ですと、攻撃役でははなく補助的な役割なので強いと豪語する出野さんじゃあ役不足かと思います」


 いやいや、俺は自分で回復して戦うし!とすぐに反論しようとしたが、一旦飲み込む。

 俺は前線で戦いたいのは事実。

 何も考えずに敵に飛び込み、傷を負ったら他の者に回復してもらうのが得策だなと考えた。

 先程は仲間と一緒に戦う事など不要だと思っていたが、そういう戦い方も有りだなと納得した。

 僧侶は多いに越したことはないな。


「そうか。じゃあまずは僧侶を探すか」

「はい!その方が良いと思います!一応私と出野さんの他にあと2人でパーティを組むので、僧侶は決まりとして」

「なんで4人なんだよ」


 俺は鼻から柿ピーが出そうになった。

 そんなに便利な職があるのになぜ4人という少数でパーティを組むのか理解に苦しんだ。

 

「そりゃそうですよ。パーティの基本は4人ですから。昔から勇者パーティは4人って決まってますから」

「そんなん多いほうがいいだろ。百人だ!残り98人は全員僧侶だ!」

「それってもう軍隊じゃないですか。しかもほぼ僧侶なんて怪しい宗教感が強すぎます」

「じゃあ間を取って10人だ。10人じゃなければ俺は認めない。8人の僧侶を集めよう」


 ゆうなは頭を抱え、大きな溜め息をついた。

 俺の言っていることに納得がいっていない様子だ。


「はぁ……。出野さん、いいですか?僧侶は主に補助役なので前線で戦う職ではないのは分かってますよね?」

「さっき聞いたから理解してるぞ」

「では魔物の群れに出会ったとして、その僧侶が攻撃を受け瀕死になったら誰が回復魔法を使うんですか?」

「他の僧侶だ」

「そうですね。ではその僧侶も瀕死になったら?」

「それとは違う僧侶だ」

「そうですね。ではその僧侶も瀕死になったら?」

「また別の僧侶だ」

「では前線で戦っている私や出野さんを回復する僧侶はどこにいるでしょう?」


 ……い、いない。

 これではまるで足手まといの集まりではないか。


「私の理想のパーティは、もっとバランスの取れた編成です。もう何を言っても出野さんは変な事ばっかり言うので、10人パーティというのは最悪認めますが、編成に関しては私の案を採用しますからねっ!」


 ここまでの話で、ゆうなの言うことは理に適っていたので俺は素直に応じることにした。

 ここから仲間探しが始まった。

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