第2話 魔王城到着
辺りはようやく暗くなり、いつでも奇襲が出来そうな環境に整った。
「んー、どう攻撃を仕掛けるかだな。同じように城ごと破壊しても良いが、あまり派手にやっちまうと関係のない他の奴等まで被害が及んでしまうな。俺が標的にしてるのはグレンヴァだけだし」
考える時間は優にあったが、過去の事を色々と思い返している内に夜になってしまったという訳だ。
出来ればグレンヴァのみを消し去り、残りの軍を自分の配下に置きたいところだ。
元々グレンヴァ軍にいた奴等は一から教育をせねばなるまいが、特に問題はない。
むしろ仲間が増えることは良いことだ。
「よし、空間魔法を使い内部に転移しグレンヴァをやろう。俺の隠蔽魔法は超強力だし他の者には気付かれないはずだ。グレンヴァには極力魔法を使わず戦い、被害も最小限に収め、なんなら魔王城ごと俺が貰ってやろう。……というかグレンヴァってどんな奴なんだ?」
俺はグレンヴァを話でしか聞いたことがないので、姿形、そして特殊能力などほとんど知らなかった。
本来であれば相手の手の内を少しでも把握してから戦うのが望ましいが、魔王である俺にその戦闘感覚は無縁だった。
少しながら、初めて脅威に感じているのかもしれない。
「あんなお粗末な魔法で俺を倒そうとしてきた事を考えるとまぁ、なんとかなるな」
この時の俺は呑気な頭でいた。
そう、グレンヴァに攻撃を当てることはおろか、そもそも戦うことすら叶わないとは知らずに。
ある程度脳内シミュレーションを重ね、俺はグレンヴァがいる魔王城へと飛んでいく。
「ここが俺の城となるところかー!近くで見ると俺の城に比べてでかいし、随分豪華に作ってやがるな」
魔王城の上空で腕組みをしながら見下ろす。
城門の前にはグレンヴァ軍とおぼしき魔物が前方に二匹、後方に一匹で見張りを行っていた。
三匹共に見た感じ悪魔系統の魔物だ。
前の二匹はどう見ても小物感が否めないが、後方にいる槍を持った一匹はおそらく相当の腕利きだろう。
腕利きと言っても、俺から見れば赤子に毛が生えたようなもんだ。
他にもいないか敷地内を見渡したがそれ以外の魔物の姿は確認出来なかった。
「ほとんどの奴等を城内に入れている……のか?」
俺の奪われた配下だけでも相当数いるのに、この城に全員収容されているとは考えにくいがそれ以外の答えがすぐに出てこない。
しかしある事を思い出した。
「あー、これは空間魔法で異空間を作り出しているっぽいな」
俺は空間魔法自体使用できるが、異空間を作り出す魔法は使用できないため答えに辿り着くまで少し時間がかかった。
「となると、城外から転移し忍び込んでもグレンヴァのところに辿り着くまで結構時間がかかりそうだな。よし、奇襲はやめて正面から突っ込もう」
作戦の変更を余儀なくされたが、結果は同じだと判断し真っ向勝負と出る。
そうと決まれば話は早い、颯爽と城門に降り立った。
門番とおぼしき魔物三匹は突然現れた俺に一瞬戸惑いを見せたが、すぐに応戦態勢に入る。
「君らには用はない。危害を加えるつもりもない。グレンヴァに話があるから案内してくれ」
俺は彼らの警戒を解くために優しく語りかけるようお願いをした。
門番が何処の馬の骨か分からない訪問者を警戒するのは普通のことではあるが、俺は彼らと争うつもりは毛頭ないのは本心だ。
「貴様、ハーデスか?城もろとも破壊し、ハーデスは死んだと聞いたが」
「ハーデスだけど、死んではないぞ?確かに城は跡形もなく消え去ったけど、俺はぶっちゃけ無傷だ」
「なんだと?おい、このことをグレンヴァ様に報告しろ!」
槍を持った門番から指示を受けた二匹の門番は、走って城の中に入っていった。
「してグレンヴァ様に何用だ?答えによってはこの場で討つぞ」
「だーかーらー、話があるって言ってるだろ」
「我らの配下に下るのか?それならグレンヴァ様も喜ぶであろう」
「んー、違うな。どちらかというと話の流れ次第だけどグレンヴァが俺の配下になるってほうがまだ可能性としては残されているかな」
配下に加える気はないが、万が一という事もあるから一応伝えておいた。
「聞き捨てならぬ言葉!貴様を討つ!」
悪魔系の魔物は雷属性の魔法を唱え、自身の持つ槍に纏わせ、俺の顔目掛けて突き攻撃を仕掛けてきた。
俺は指一本でその攻撃を受け止め、指先から氷属性の魔法を槍に付与し粉々に砕く。
武器を失ったことで一旦後ろに飛び距離を取ったが、門番は尚も攻撃を仕掛けてくる。
「ではこれはどうだ!」
大岩ほどの大きさの雷属性魔法を掌に浮かべ、次第に凝縮させ最後には掌に収まる大きさの球体になった。
バチバチと音を立て魔力が凝縮された塊を保持したまま、物凄い早さで一直線に向かってきた。
俺まであと数歩のところで存在が消え、一瞬で背後を取られる。
「もらったー!」
零距離で放たれた攻撃を受け、轟音と共に全身が雷に包み込まれた。
「……属性が偏るのは仕方ないが、華がないな」
雷属性の攻撃を食らったが、その程度の威力では俺の体に傷一つ付けることはできない。
纏わりついた雷は、バチバチと音を立て毒のように相手の体を蝕むようだが、俺にはそんなもの効かない。
寧ろ魔力の補給になるくらいだ。
門番は、攻撃したままの体勢で硬直している。
動きが余りにも遅すぎたので相手の攻撃が当たった瞬間にカウンターで軽めの麻痺攻撃を当てていた。
背中を向けゆっくりと歩きながら俺は右手に魔力の渦を作り全身の雷をその渦に集約させた。
「多分こうやった方がカッコいいぞ」
門番から少し離れたところで振り返り無駄に格好いい動きをしながら右手の雷を地面に叩きつける。
目が合ったが、地に吸い込まれ視界から消えた雷は何処に行ったのやらという顔でいた。
「えっ?」
自分を中心に発生している僅かな振動に気付いたのであろう。
刹那、門番の周りから想像を絶する無数の魔力が地を裂き溢れだし、雷鳴と共に上空へ向かっていった。
膨大な魔力で天地が逆転したかのような光景だ。
圧倒的な力の差を見せつけられ言葉を失っていた。
「もうよい」
どこからともなく声が聞こえてきた。
一瞬でこの声の主がグレンヴァであることを悟った。
「おい、お前グレンヴァだな?よくも俺の睡眠を邪魔してくれたな。俺は逃げも隠れもしないから出てこいよ」
「グレンヴァ様ー、こいつ生きてたみたいですよー!」
麻痺が解けていた門番は、城に向け声を上げた。
「モンヴァンよ、ハーデスを城へと案内せよ」
「はっ!」
グレンヴァがそう告げると門番は歩き出した。
これから俺に負けるというのに随分余裕だな、そう感じた。
その余裕がどこから来るものか理解するのにさほど時間はかからなかった。
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