縄張り争いに負けた元魔王ですが、リベンジのため勇者パーティに仲間入りします! ~え?勇者側って【レベル】が上がると強くなるの?そんなんチートじゃん~

馬野郎

第一章 敗北とは

第1話 壊された俺の城

 地面に空いた大きな窪みの中心に俺は大の字で横たわっていた。


「あんの野郎、この魔王であるハーデス様の寝込みを襲いやがって。後悔させてやる」


 飛行魔法で少し身体を浮かせ、体勢を整え地面に足を付ける。

 自分がどういう状態か確認すると自慢の鎧とマントが魔法攻撃により傷付きボロボロになっていた。

 初代魔王が纏っていた鎧とマントで、俺が魔王になってから城の地下にあった隠し部屋から見つけ出した。

 俺専用の装備なんじゃないかってほどに身体にフィットし、着用中は何だか力が漲るような感覚がある。


「はぁ、俺のお気に入りだったのになー」


 鎧に付いた砂埃を手で払い、肩からマントを外しバタバタと振りさばく。

 続けて兜と愛用の大剣を探すが見当たらない。


「こりゃ絶対盗られたな」


 今俺が探している鬼の面のような兜も身長ほどある大剣も鎧と共に隠し部屋から見つけ出したものだ。

 この二つを手に取った時、まるで俺が来るのを待ってましたと言わんばかりの精気を感じたので特にお気に入りだった。

 まぁ兜や大剣が無くとも魔法は唱えられるし、特に今現在支障は出ていないので早々に探すのをやめた。

 その内見つかるだろうと楽観的に考えていた。 


「そういや俺が食らった魔法はどの程度の威力だったんだ?」


 気になり飛行魔法で真上に飛び下を見ると、俺が寝ていた所を中心に軽く半径1キロはあるだろう破壊の跡が確認できた。


「いくら何でもやりすぎじゃないか?そりゃあ俺は魔王だから生半可な攻撃ではビクともしませんよ?だからといって城ごと攻撃するのはルール違反じゃないですかね」


 顎に触れながらぶつぶつ文句を垂れ、俺の生活拠点である魔王城があったはずの場所を眺める。


「んー、これは火属性と地属性の複合魔法だな。威力も極大ってところか。俺はその程度じゃ死なないのに後始末がなってないな」


 魔法には様々な属性があり、効果や威力も段階毎に異なる。

 俺が食らった攻撃は一部の魔法を極めし者しか唱えられない複合魔法、そして威力は最上級の極大だった。

 小、中、大、特大、極大という具合に効果や威力は増していくが、使用者本人の力によって同じ極大でも効果や威力が違ったりする。


「よし、お礼参りといくか」


 俺はもうこの世に一つしかない魔王城へ向かって飛んでいった。


「やられたらやり返す。そっちが奇襲ならこっちも奇襲よ」


 道中、隠蔽魔法を使用し、相手に気付かれないよう警戒しながら飛行を続ける。

 そして魔王城が見えてきた。

 現在、時刻は丁度昼時だ。


「さて、夜になるまでこの辺で一休みするか」


 辺りに誰もいないことを確認し、魔王城を取り囲む岩々の隙間に降りた。

 傷付いた漆黒の鎧とマントを脱ぎ、身軽になった状態で腰を下ろし、頭の後ろに両手を付け寝そべる。


「つい最近まで平和だったのになー」


 結界を張り、目を瞑るとぼやきの一言が自然と溢れ出る。


 それもそのはず俺が魔王になってから今の今まで争いなんて一つも無かった。

 かつては勇者と魔王の戦いがあったが、俺の代でそれは途切れた。

 魔王軍が攻めるから勇者は立ち向かい、勇者が立ち向かうから魔王軍は攻め立てる。

 始まりはちっぽけな縄張り争いに過ぎない。

 魔王軍とはいえ仲間が失われるのは非常に痛手だし、出来れば誰一人として失いたくはない。

 それであればと思い、俺が魔王になってからは仲間が町や村を襲わないよう、そして無闇に人間を殺さないよう厳しく教育をした。

 知能がある魔物はそれに従ったが、そうでない者は放っておいた。

 この世界では知能無き魔物は知能が備わった魔物に比べて圧倒的に弱い。

 魔物を統べるのが魔王ではあるが、そのような魔物は魔王軍の支配下に置けないのが実情だ。 


 基本的に魔王軍の方が人間と比べ遥かに強い。

 人間側は勇者という脅威が存在するが、深く考えた時、勇者は我々を殺す為の存在ではなく人々を守る為の存在だと気付いたからだ。


 我々が町や村を襲わず、戦いになっても防戦一方を貫いた結果、魔王軍と人間は戦うことをやめた。

 俺は人間の王様、周りからなんと呼ばれているか分からないがその人間王に停戦を告げに行った。


 人間は俺が来たことにより直ぐ様臨戦態勢をとったが、人々の前で膝を着き戦う意志がないことを示すと人間王の元へと案内された。

 人間王は最初疑いの目で俺を見ていたが、最終的に和解に至った。

 それからはお互い干渉せず、平和に暮らしていた。


 しかし、突如としてその平和は崩される。

 新たな魔王の出現だ。

 その魔王は自らをグレンヴァと名乗った。


 この世界では魔王は唯一無二の存在。

 魔王になる者はその代の魔王に認められて初めて魔王の名を口に出来る。

 世代交代というやつだ。

 かつては魔王を名乗る存在が複数いて、縄張り争いが各地で行われていたが、いつの時代からか、その争いも無くなり魔王の座は一本化された。

 しかしグレンヴァは何の前触れも無しにその構図を塗り替えた。

 俺がその存在を知った時にはもう魔王を名乗り、拠点である魔王城も形成されていた。

 そして不可解な事に、俺の仲間達もいつの間にか消えていた。

 グレンヴァの存在を教えてくれたナンバー2も、次の日には俺の元から姿を消した。

 皆が姿を消した原因は不明だが、グレンヴァにやられたか、もしかしたら捕らわれた可能性も大いに考えられる。


 そして、俺がグレンヴァへの対応を考えていた矢先に奇襲攻撃を受けた。

 かつて魔王同士の縄張り争いが起きていた時のように……。


 目を閉じ眠ろうと思ったが、自分がいた魔王城が跡形もなく破壊された記憶が過去を辿りながら甦る。


「これじゃあ寝れやしない」


 色々な感情が混ざり合い睡魔の攻撃を無効化してしまった俺は、岩々の狭間で強引に目を閉じて夜まで待つのであった。

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