第20話

 嘘。

 つかない方が難しい。

 使い続けるのも難しい。

 隠すということは悪いことか。騙すということは悪いことか。

 一概には言えない。

 そこに、どんな意図があるのかは、言葉だけではわからないのだから。


「俺としては、過去がないことに同情するよ。それは生きていく理由が、ないようなものだからね」

 ユキオは言った。

 しかし、キラは首を横に振った。

「確かに、そう思われるかもしれない。だが、そんなことはない。生きていく理由は、過去がないことだからだ。白紙だから、新しく探す。これまでを探す。知らないことが理由になる。動機になるんだ」

「そうか、君は強いな」

 ユキオはふっと笑った。

「ところで、女性の名前は? 男の子はキラくんだったが、聞いてなかった気がするんだが」

「そうでしたっけ? 私はラキです」

 ラキが名乗ると、ユキオはキョトンとした。

 そして、頭をかいた。

「キラとラキか」

「私が名付けたんです。いい名前でしょう?」

 自信満々に胸を張るラキ。その姿に、ユキオは苦笑いを浮かべた。

「なるほど。わかりにくいな。間違えそうだよ。それにただ反対にしただけだし、安易だ」

 ラキがはっとした。

 そして、しょんぼりと俯いた。

 少しの間。

「あ、いや、いいと思うよ。シンプルだし。むしろわかりやすいというか」

 慌てたように言葉を繋げるユキオ。

 明らかにとってつけた言葉だとキラは思った。

 だが、ラキは、いいと思う。という言葉だけしか聞こえなかったのか満面の笑みを浮かべていた。

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