第19話

 過去は変えられない。

 過去は起きてしまっている。

 過去は過ぎ去ってしまっている。

 過去は変わらない。


「これは、俺が子供の頃の話だ」

 天井を見上げながら、ユキオは訥々と語り出した。

「まだ、俺たちが人かどうか決まりきっていなかった頃だ。その頃は差別が跋扈していた。仕方がない。姿が違う者を受け入れるのは難しいものだ。そうやって受け入れようとしていた」

 窓の外では親子が楽しそうに笑顔を交わしている。

 日もまだまだ登ろうとしており、明るい光が部屋へ差し込んでいた。

 だが、家の中は明かりはあるが、少し暗く、静かで、外の物音は聞こえてこない。

「俺たちは職もなく、金もなく、その辺に実る小さな木の実で飢えを凌いでいた。そんな日々が長く続いた。終わらないとさえ思った。それが、俺の思い出した昔さ」

「そうか。それは悪いことをした」

 キラは深々と頭を下げた。

 少し笑ってユキオはキラを見た。

「いや、いいんだよ。その反省で今があるんだし、キラくんは知らなかったんだからね。だけど、知っておいてほしい。この過去を聞くだけでも怒り狂う人もいるから」

 ユキオはまた窓の外を見ていた。目を細めて、ほんの少し広角が上がっていた。まるで、眩しいものを見るような表情はどこか悲しげだ。

 そして、まだ何か言いたげだが、飲み込んでしまったようにも見える。

「わかった」

 ユキオの目を見て言うと、キラもまた外を見た。

「俺は昔はどれだけ悪くても、今がいいことが、大事だと思うけどね」

 ユキオの言葉にキラもラキも黙って頷いていた。

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