第17話

 一生つきまとうもの。

 それは何も肉体だけとは限らない。

 名。

 人はそれだけで、苦悩し葛藤することさえある。

 変えるために、面倒な手続きをしなければならないこともある。

 だが、何も苦しめるために、変わった名前をつけるわけではないのではないか。

 思いが重いだけではないか。

 一概には言えないか。


 沈黙を破ったのはラキだった。

「なら、私がつけてあげます」

 悔しさで、手を握りしめることしかできなかった彼には、最初、何を言っているのかわからなかった。

 瞬きをして、ラキの顔を見つめているうちに、言葉は彼の中に浸透した。

 しかし、彼が口を開くより早く、ラキは手で顔を覆うと言った。

「やだなぁそんなに見つないで。大丈夫ですよ。変な名前にはしませんから」

 ぽかんと口を開けた彼。そして、すぐに首を振った。

「いや、違う。その、いいのか?」

「いいって、何がですか?」

「名前なんて軽々とつけて」

「いいんじゃないですか?」

 彼はいいんじゃないですか。と口の中で繰り返した。

「いいのか」

 ラキの朗らかな態度に彼は肩の力を抜いた。

 名前のなんたるかを知らない彼よりも、ラキの方が名をつけるのに向いているのだろう。

 納得したように一度頷くと彼はただ、

「任せた」

 とだけ言い、ラキの次の言葉を待った。

「じゃあ、あなたはこれからキラね。キラキラのキラ。それに、私の名前をひっくり返したの。いいでしょ?」

「ああ。キラか。ありがとう。ラキ」

「ふふ。何だかいいわね名付けって。ふふふ。他人の人生に一生ついて回るものを与えられるなんて、そうそうないわ」

「おい。一生?」

「ふふ、ふふふふふ」

「なあ、一生って?」

 不穏な雰囲気を感じ、何度も問い詰めたキラだったが、ラキは相手にしなかった。

 そう。もう手遅れだった。

 ラキは幸せの絶頂といった雰囲気で笑いを漏らし、手で隠しても隠し切れないほどの笑みを浮かべスキップをしていた。

 だが、周囲の植物は風に揺れざわめき、鳥たちは去るように飛び立ってしまった。

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