第3話

「あ、起きた?」


「寝てた…のか…?」


「急に倒れたからびっくりした。どうしたの?」


「お前の記憶…らしきものを見てきた」



八城がそういうと、アリスの顔が引きつった

そして、八城の前に両膝をついて俯く



「どんな、記憶…?」


「なんか…村の人間に悪魔とか言われて迫害される記憶、だな」


「…私も、その記憶戻ったみたい。あの本は、私の過去なんだ…」


「とはいえ一部らしいがな。夜斗とかってやつが出てきた直後に戻ってきたし」


「そう…」



何かを求めるように震えながらも、拒むように俯くアリス

そんな姿を黙ってみていることはできず、八城はアリスを抱きしめた



「え…?」


「泣きたきゃ泣け。見ないでおいてやる」


「あ、ありが…と…」



嗚咽が響く中、八城は考えていた

この物語の核心に迫りそうなことを



(俺は、夜斗を知っている…気がする)




館内に昼や夜の概念はない

眠くなったら寝て、起きたいときに起きる。ただそれだけだ



「おはよう、アリス」


「…おはよ。ここで寝てたの?」


「ああ。部屋があんのか?」



2人が起きて、集まったのはまた広間だ

ここにいれば来る。そういう気がして、2人はここにきたのだ



「あるよ。目を閉じて、部屋に行きたいって思えばいける。本を持ってけるから、そこで読んでもいいと思う」


「そういうのは先に言おうぜ?腰バッキバキなんだから」


「この世界でも、痛みがあるのは割と理不尽。しかもあの部屋、タンスの角硬いし…」


「ぶつけたんかい」



八城はそういいながら読んでいた本を机に置いた

それは、とある世界最強の吸血鬼が、監視者と共に戦う恋愛モノのようなライトノベルだ

生前の八城が覚えていた唯一のもので、これから派生して親友の記憶を取り戻した



「それ、面白いの?」


「ああ。全22巻あってな、内容を読み返してたんだ」


「ふーん…。私も読む」


「おういいぞ、語るなら付き合うしな」


「じゃあ、貴方はこれ読んで。リストA8」



アリスがそういうと、アリスが腰掛けた目の前に30冊近い本が現れた

しっかり一番上は1巻のようだ



「なんだこれは…」


「劣等生として分類された最強の魔法師が戦う物語。最後まで読めば、衝撃的な結末が見れるかも。この世界、現実世界で更新された瞬間に新刊が出るからすごく助かる」


「読んでみるかな」



八城の体感で8時間。普通なら空腹になる頃合いだが、そんな予兆はない

どうやらそういった、損になることは切り離された状態らしい

ならば睡眠もいらないだろうというのは2人の意見だ



「読み終わった。そっちは?」


「まだ…。え?32巻読み終わったの?」


「ああ。俺は読むの早いからな」



早いと言っても15分に1冊。他より若干早い程度である

アリスも残り2冊程度まで読み進んでいた



「で、どうだったの?」


「なかなか面白い。ここに来る前に読んでおきたかったな」


「ここにきたから読めるんだよ。向こうにいたら私にあわずに、知らないまま終わってたはずだから」


「それもそうだな。まぁここを死後の世界とするならそれは知らないまま死んだってことになるけど」



笑う八城

本で顔を隠しながら、アリスは手元にあったココアを飲んだ



「ココアあるのか」


「心のなかで念じると出てくるよ。飲食物なら大抵出てくるし、本にかけても汚れない」


「なんだそのシステム。じゃあ…コーラ」



眼の前に薄っすらとコップが現れ、次第に水面から浮かび上がるかのように実体が強くなり、コーラが現れた

それを見て眉をしかめるアリス



「なんだよ」


「体に悪いよ」


「今更気にするかよそんなこと」



八城はそう言ってからコーラを口に含み、少し目を細める



「旨いな、やっぱり。これもしかしてコ――」


「それ以上はだめ。法律に殺される」


「おいやめろメタいことを言うな」



コップを机に置き、本棚を見る八城

釣られてアリスも同じ方向にある本棚を見た



「この中に、お前の記憶があるんだよな」


「うん。そしてそれは鍵がかかってて、その鍵が何かわからない。貴方が持ってた鍵はたまたま合ったけど、他の鍵は合うとは限らないしなんで鍵持ってるの?」


「知らんがな。けど、その鍵を探すの面白そうだな」



八城は立ち上がり言った

上を見上げると、床もないのに浮かんでいる本棚がなんとも言えない圧力を醸し出している

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記憶の海の向こう側 本条真司 @0054823

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