十二月九日 くめじま進水とまえじま
「ほら、あれが弟だぞ」
一番上の兄が嬉しそうに今、進水したばかりの艇を指さす。近くには白い正装を纏った【
「人名、考えてやらないとな」
「所属は関西のほうだっけ?じゃあ、苗字はニシノか……」
「漢字はとりあえず、久に哉だろ。考えるのは読み方だけじゃん」
名前について盛り上がる兄たちの勢いに負け、逃げるように視線を【くめじま】に向ける。【くめじま】はただただ真っ直ぐに海に浮かぶ自分の本体たる艇を見ている。海から吹く風は冷たく、磯の香りを漂わせる。
「さむっ!」
「はっくしゅん!!」
思わず出た感想に合わせるようにくしゃみが響く。どうも犯人は【くめじま】らしい。【座敷童】が急いで懐からティッシュを取り出していた。
「
「ちょっとだけ」
次兄がいつのまにか俺の横に立ちカイロを差し出してくる。素直に受け取れば次兄は満足そうな顔をして、【くめじま】の名前会議へと戻っていった。
「あいつも、おっさんみたいになるのかな……」
座敷童に甲斐甲斐しく世話を焼かれる弟を見ていると、同じ任務を担う先達を思い出した。
それは寒い冬の日。俺の弟が生まれた日。
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