平成二十年

うわじま型とねずみ

 蒼い海に青い空。それらは何も現世の者たちだけの物ではない。現世に限りなく近い所に現世ではない場所……【道】と呼ばれるその場所に、人に望まれ人に想われて生じた【艦霊ふなだま】と呼ばれる神々。彼らは人と共に海に生き空に焦がれ暮らしている。そして、幾星霜の時を経ても奴らは彼らの生活を脅かす。


 男子高校生の部室を煮詰めたような掃海屋敷の一角で、【艦霊】家哉いえとしはタバコをふかしていた。静かな室内にタタタタタタと一定のリズムを刻む軽快な音が響く。家哉は立ち上がり耳を澄ます。音は天井からのようだ。これは、もう間違いないだろう。我ら木造掃海艇の敵がここにいる。

「でやがったな……。和哉かずや!!和哉!!」

「ん?どうした?」

「コードM《マイク》!!戦闘準備!!」

「まじか!他のやつ呼んでくる!」

窓の外に見えた和也に叫べば、和也は全力疾走で屋敷に入ってくる。俺もぼんやりしていられない。屋敷にあるM駆除グッズを徹底的に集めた。

「家哉、連れてきたぞ!!」

和哉を先頭にバタバタと室内に入ってきたのはどれも和哉によく似た顔……もとい弟たち。九人いればとりあえずはなんとかなるだろう。

「よし行くぞ」

「おう」

脚立に上り天井の板を退け懐中電灯で中を照らせば、ホコリの国がそこには広がっている。

「きたなっつ!!」

「ちゅー」

「えっ?」

振り向けば、バッチリとMと目があった。

「うわあああああああ!!」

「どうした!?」

「ちゅー」

俺の声に驚いたのかMは俺の顔を踏みつけ体を伝い下へと降りる。あまりのことに声すらでなかった。そして、下には兄弟たちが突入のために待機している。

「うわああ!!」

「来た!?」

「こっちくんな!!」

「ヤッちまえ!!」

それぞれの絶叫と共にバシバシと何かを叩く音が聞こえる。緊張を振りほどき、下を見れば。小さな獣一匹にホウキを振り回す兄弟たち。

「ちゅー」

「今だ!!いけ!!」

誰かが開けた窓に向かって久哉がホウキを振りかぶりMを窓の外へと放りだした。

「よっしゃあ!!ストラーイク!!」

「……駆除しろよ、このバカッ!!!!」


俺の魂の叫びが【道】の空へと響いたのであった。

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