三月二十三日 くめじま最期の金曜日
【
「久ちゃん、今日カレー作ってよ」
弟である弓哉の何気ない一言によって俺は今、【補給艦】の城という名の厨房でじゃがいもの皮を剥いている。
「【くめじま】、遅いぞ!!」
俺に激を飛ばす、【ましゅう】の手にもじゃがいもが握られている。そしてそのじゃがいもは目にも止まらぬ速さで丸裸にされ、あっという間にザルに放り込まれる。俺が一つ剥いている間にも【ましゅう】がどんどんとじゃがいもの山を崩していく。奥では【おうみ】に【とわだ】、【ときわ】が人参やら玉ねぎやらをこれまたものすごいスピードで剥いていく。その姿はまさに戦場を駆る戦艦の如し、ただの【掃海艇】である俺はここでは子供の作ったプラモデル以下の性能しかない。どんどんと処理されていく野菜たちを横目で見ながらチマチマとできることをやるしかないのだ。
「ほら、【くめじま】、残りのやっとくから」
そう言って【ましゅう】は俺のところにあった残りのじゃがいもを奪いさっさと処理をして巨大な鍋に放りこんだ。そして小さめの鍋を一つ取って俺に渡した。
「これで足りるか?」
「だ、大丈夫デス……」
野菜と肉を鍋に入れ調味料と一緒に煮込む。後ろで【補給艦】たちがやはり巨大な鍋で恐ろしい量を煮込んでいるのを見ると俺の鍋がなんだかおもちゃのようだった。
「【くめじま】、そろそろいいんじゃないか?」
【ましゅう】が銀色のプレートを三枚、上の棚からひょいと取り出した。
「棚の場所、高くない?」
「【掃海艇】仕様じゃないからな。米は【ときわ】のところな」
【ましゅう】にさっさと行けと視線で告げられ、【ときわ】の所へ行けば【ときわ】は巨大鍋をかき回す巨大杓文字から手を離し素早く米を盛ってくれた。
「あっ、俺ちょっと少なめでいい」
「早く言え!!」
そう言いながらもプレートの一つから米を減らして残りの二つに追加で盛る手つきは丁寧で、補給艦の性質がしっかり表れていた。
「【くめじま】、カレー冷める前に持って行けよ」
「おう! ありがと!」
【ましゅう】が鬼のような速さでカレーを盛っていくのを背にプレートを持ってすぐ隣の食堂へと向かう。食堂ではもう既に弓哉と長哉が席について待っていた。
「はーい、くめじまスーパーカレー676でーす!」
「スーパーなの? どこ?」
「米の量が?」
「まあ、味わえ!!」
カレーは誰が作ってもうまい。多分。
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