平成三十一年 令和元年

一月十五日 あきの進水 ひびきはりま

音響測定艦として、この造船所で生を受けて三十年に少し届かないくらい。今まで兄の【ひびき】とたった二人の兄弟だった。それがなんの因果か今日、この瞬間にも自分が兄になろうとしているのだ。自分たちそっくりな双胴船そうどうせんの艦にはこの造船所独特の鬼灯形のくす玉が花開く時を待っている。

「……なんか仲良くできる自信ない」

思わず本音が漏れる。すると、どんなことも聞き逃さない兄は俺の手を甲をちょっと撫でてから口を開いた。

「名前と死ぬこと以外の全てを分かち合う俺たちはどんな艦艇よりも深い絆を持つ兄弟だから、大丈夫。きっと仲良くなるよ。周りが羨むくらいにね」

現世では眼鏡をかけていても頼りない視力でも、兄の顔がとても優しい笑みを湛えているのが分かる。新しい艦の名前が読み上げられ、支綱が銀色に輝く斧で切断される。くす玉が割れるとその【艦霊ふなだま】ははっきりとした輪郭を持って俺たちの前に現れた。

「はじめまして、【あき】。君の兄です」

兄よりも先に出た俺の言葉は、三十年近く生きてきた中で一番優しい声をしていた。

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