第3章 

罪に罰を、裏切り者に裁きを

智也が女と出てきた。

「……! ゆっ裕美! 何故ここに!?」

「あなたのプライバシーに干渉したくなかった。でも、心配だったの。あなたのことが……。女に振り回されているんじゃないかって……なのに……あなたって人は……その女に振り回されるのを楽しんじゃって…!! さっさと振りほどきなさいよ!! 私というのものがありながら!! 何か言ってみなさいよ!」

「ごっ誤解なんだ! この人は俺の妹……」

「何を言うかと思えば……くだらない言い訳ね……あなたに妹なんていないでしょう? 私、あなたと結婚してから聞いたわよ、家族構成。父と母と兄の4人家族だって……。私、あなたのこと何でも知っているわ。わかっているわ。もし、知らないことがあるならば知っていく努力を怠らないわ。だけど……あなたは私のこと……何もわかってくれていなかったわ……。毎日、帰ってくるのが遅いあなたを待ち続けた私の気持ちを……いつまでもあなたについていくと決めた私の気持ちを……」

「ゆ……」

「あなたは私の気持ちを踏みにじったの……罪には罰が必要だわ。裏切り者には裁きをくださなくてはね……ウフフフフフ……。でも、とりあえず、一旦眠って……」

裕美は智也と女に匂いを嗅がせた。それは睡眠薬だった。

「あらあら、昼間からお酒でも飲んだのかしら。困った2人ね。私が運んであげましょう」

周りの人には、酔って眠ってしまった2人を装わせた。


――――

「こっここは、どこだ!?」

辺りは薄暗く、段ボールらしき箱がたくさん積まれていた。

「フフフフフフ……気がついたのね。ここは海の近くに立っている倉庫の中よ……かなり遠くに来たから私も詳しくは知らないわ……まぁ、そんなことはどうでもいいわね。じゃあ、始めましょう。本当なら、そこにいる女だけの予定だけだったけど、智也……あなたも受けなさい。たっぷり……可愛がってあげるわ……」

「倉庫の中!? くっ……助けを呼べないか……ってロープで縛られている……動けない!!」

「あら……逃げられては困るもの……せっかく捕まえた玩具を簡単に手放したくないわ……」

「こっこの……悪魔!! 何が玩具であ! 僕らは物なんかじゃない!! 人間だ!!」

「黙りなさい!!」

裕美は智也を鞭で叩いた。

「ぐあぁ!」

「物の分際が私に口答えできると思っているの……生意気ね……」

「やめて!! 智也さんが可哀想よ!!」

「黙れ!! お前も喋るな!!」

「ああぁ!!」

「いいわ……良い声で鳴いてくれるわ……。そう、あなた達は私を楽しませることだけをすれば良いのよ……口答えも抵抗もいらないわ……」

裕美の心は壊れてしまった。ガラスの破片のように……もう戻りはしない。裕美はもう失ったのだ。何もかも……愛していた夫からの裏切り……夫の隣にいる自分以外の女の存在……そんな要素が裕美の心の破壊の速度を加速させてしまった。止めは夫からの「嘘」だった。

 お互い隠し事はしないと約束していたのに……。智也が隠し事をしていたいことを謝ることは疎か言い訳をして罪から逃れようとしていた。嘘で全てを塗りつぶしてしまおうと思っていた。だが、裕美にそれは通じなかった。

 いや、もう通じなくなった。裕美の心は壊れた。むしろ、自ら心を壊したのだ。心さえ失ってしまえば何も感じなくなる。もう悲しいと思いに潰されなくなる……と。もう、裕美の心を支配している感情はただ1つ。

                 「殺意」

裕美は人間の心を持たなくなった。智也は1人の殺戮悪魔を生み出してしまった。もう誰にも止められない……。

「まずは、智也からよ。智也はどんな声をあげてくれるのかしら」

「たっ助けて……」

「あら、今更命乞い? 無理よ…… ここ、廃墟だもの。立ち入り禁止区域に誰も来ないもの……携帯も電波が届かないわ……」

「いやだ…!! まだ死にたくない…!! なっなな……!!助けてくれ……!!」

「女……あんたの名前、奈々子というんじゃない?」

「そっそうですが……」

「やっぱりね……あの名刺に書いてあった女じゃない……取引先の女が何故、私だけの智也に手を出しているのかしら? 彼はね……頭のてっぺんから足の爪先まで私のものよ……? 髪の毛1本すら誰にも渡さないのに……。あんたは何、気安く触れてんのかしら?」

「わっ私、智也さんのことが好きになっちゃったんです!!」

「……」

「……/////」

「いつも私の勤める会社に取引に来てくださって、お会いする度に智也さんへの想いが募って……でも、もう奥様がいたんですね。独身だとお聞きしていたのに」

「なな……すまない……騙してしまい。もちろん僕は裕美を愛している。でも、ななへの気持ちも溢れてしまっているんだ……僕は……なんてひどい男なんだ……」

「ふん……何を今更言っているのかしら。あなたは私だけじゃなくて、そこの奈々子という女も傷つけたのね。あなたが最低な男だなんて……幻滅だわ……まぁ、今から罰を下してやるんだから……奈々子の肩を持つことになってしまうのが気に入らないけどね……見ていなさい、奈々子。好きになった男の醜い散り様を……アハハハハハ!!」

「狂ってる……何故、貴女は笑っているの!? 自分の夫を苦しめて何が楽しいの!?」

「狂っている…ですって?? アハハハハハ!!! 何を言っているの!! あんた!! 私が正しいのよ……私の何もかもが正しいのよ……私を間違っているという奴は黙らせるのみ……ウフフフフフ……アハハハハハ……」

 裕美は包丁を手にした。包丁からは鈍い光が放たれていた。これからの行為を待ち望んでいるかのように……

「智也……愛しているわ……だから、永遠の形でいつまでも私の隣にいてちょうだい!!」

 裕美は包丁を智也の右手首にに刺す。

「あぁ!! ぐああぁ…!!」

裕美に返り血がつく。

「良い声……良い紅色あかいろだわ……次はこっちに刺すわね……」

今度は左手首に刺す。

「あが……ぐうぅあぁ……!!」

「あぁ……たまらないわ……次は……次は……切り落としてあげるね……!!」

「ひっいや、いや……」

奈々子は見ていられず目を瞑る。

「ひいぃぃ……ぎゃああぁぁっっ!! あぐぅあぁぁ!!」

智也の両手首は切り落とされた。

「ウフフフフフ……落ちたぁ……もっとよ……まだ足りないわ……さぁ、聴かせて絶望の声を。見せて、震え怯える様を……アハハハハハァァァ!!!!!まだ、死なせないわよ!!!!!」

 裕美は手を止めない。腕に、腹に、足に。めった刺しを繰り返した。さらに、色々な所を切り落とす。その度に智也の呻き声が騒めく。声が倉庫の中に響く……裕美も智也も紅色に染まっていた。裕美は恍惚な表情をしていた。

「あぁ……幸せよ。智也……私、あなたの愛に包まれている……満たされている……待ち望んでいたの……あなたの愛に包まれること……あなたの匂い……そして……」

裕美は包丁についた血を舐める。

「あなたの味……最高だわ……じゃあ、智也、そろそろ永遠にしてあげる……怖がらなくていいのよ……一瞬だから……一瞬で心臓を貫いてあげるから。あなたを愛しているから永遠にするの……」

「やっやめろー!!」

智也は叫んだ。だが、裕美は躊躇うことなく心臓を貫いた。

「あ……がは……」

智也は吐血し、息を引き取った。

五体不満足者のような体の屍が裕美に倒れてきた。裕美はそれを受け止める。

「ウフフフフフ……智也、飾ってあげるからね。待ってて。そこにいる女も同じようにしてあげるから……でも逝き先は違うから。智也は私といつまでも一緒だけど、あんたは地獄へ送ってあげるから……」

裕美はゆっくり奈々子の方を見る。

「あんたは楽に逝かせないわ……覚悟しなさい……ウフフフフフ……」

「いや、いや、いやああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

奈々子は先程まで起こっていた事の矛先が自分に向いたことに恐怖を感じた。震えが止まらない。心拍数が上がる……。殺される……殺される……!!逃げなきゃ……目の前の殺戮悪魔に殺される。だがロープが奈々子を束縛し思うように動けない。

 このロープが切れれば……逃げられるかも……奈々子は一か八かで裕美に突っ込んだ。

「……!?」

 裕美は突然のことに驚いたが包丁を自分の前に構えた。奈々子は自分に当たらないように体を捻りロープを刃にあてる。

 ブチッ

ロープは切れた。その瞬間、奈々子は全速力で駆けだした。

「……やるじゃない。そう、そんなに私と鬼ごっこがしたいのね。いいわ。捕まえてあげる……。待ちなさい……!!切り刻んであげるから……アハハハハハ……!!!!!」

 裕美も全速力で奈々子を追いかける。

「止まりなさい……刺すわよ……!! 止まっても刺すけどね…!!」

「いやあぁ!!!!!」

奈々子はひたすら走った。後を振り返ってはいけない。悪魔と目が合ってしまえば足が竦んでしまう。だが、倉庫の中は広く、どこも同じような段ボールが高く積まれているという景色が続く。

「もう疲れた……なんて広い倉庫の中なの。こうなったら」

奈々子は段ボールの山に隠れた。

「どこにいった……!? てこずらせやがって……あの女……!!!!!」

裕美はそこら辺にある段ボールを蹴飛ばす。

「ここじゃない……どこだ……!!!!!」

奈々子は震えながら、裕美がこの場から離れることを願った。

「見つからない……違う場所を探すか……」

裕美は走りこの場所を後にする。

「ほ……今の内に……」

ゾクッ

奈々子は悪寒を感じた。体の震えが止まらない。足に力が入らない。

今、後ろを見てはいけない気がする……本能がそう告げている。だが、奈々子は恐る恐る後を見てしまった。

「……見いつけた……」

悪魔が立っていた。最高の笑みで……

「なっ何で……他の所へ行ったんじゃ……」

「私から逃げられたつもりだったのかしら……こんなの子供のかくれんぼより簡単だわ……どうして、私から逃げたの……私はただ、あなたを可愛がってあげるだけよ……ウフフフフフフフフフフ……」

「あぁ……あぁ……」

奈々子の目から涙が止まらない。

「ウフフフフフ……その顔……見ているだけでゾクゾクしちゃう……もっと……見せて頂戴……でも、その前に……二度と逃げられないようにしないと……今度は大丈夫だわ……鎖だもの……」

裕美の手には重りがついた鎖。奈々子は抗う術もなくいとも簡単に鎖を両手首、両足首に取り付けられた。

「さぁ、鳴いて……聞かせて……。私を楽しませて……」

裕美は鞭を手にした。

「包丁じゃない……?」

「包丁で刺していて、多量出血で簡単に死なれてはつまらないわ。散々にあんたを傷めつけて楽しんでから逝かせてやるわ……!!」

 裕美は鞭を振るった。

「痛いっ!!!!!」

「そう……そうよ……もっと……もっと喘ぎなさい…!!!!!」

裕美は手を止めることなく鞭を振るう。

「あぁ…!! ぐぅ……!! あがぁ…!!」

打たれるたびに奈々子は呻く。奈々子の意識は朦朧としてきた。

「あぁ……うぅ……」

「させないわよ…!!」

裕美は力強く鞭を振るった。

「痛い!!!!!」

奈々子の意識が覚醒した。

「あんたは何、気絶しようとしているのかしら? 気絶したら痛みを感じなくなるじゃない……それではつまらない……私を楽しませることだけすればいいの……何回言わせたら気が済むのかしら……?」

「ごっごめんなさい……」

「言葉なんか当てにならない。態度で示しなさい!!」

 裕美は鞭を振るう。

「ああああ!!!!!」

 奈々子の体は赤く腫れ、痙攣を起こしていた。

「フフフフフフ……そろそろこちらで可愛がってあげようかしら……」

 裕美は包丁を手にする。包丁からは血がついているからか不気味な鈍い光が放たれている。

「フフフフフフ……この子もお前の血を吸いたくてしょうがないみたいよ……今、吸わせてあげるからね……」

 裕美は奈々子の右肩を切りつける。

「ぐううぅぅぅ……」

 鈍い痛みが走る。

「こっちもよ……アハハハハハ……」

 左肩も切りつける。

「ぐうぅぅあぁ……」

大量の血が流れる。

「さぁ、切り落としてやるわ。あんたの体の部位……」

裕美は奈々子の体の部位を次々に切り落としていく。

手の指……

手首……

腕……

足の指……

膝……

太もも……

切り落とされる度に、倉庫の中を奈々子の声がこだまする。

裕美は切り落とすのを辞めて、めった刺し始めた。

肩、腹などを……

だが、もう奈々子は声を出さなかった。いや、出せなかったのだ。彼女の喉はあまりにも叫ぶものだから潰れてしまっていた。

「あら……声を出しなさい……!!」

裕美は鞭を振るう。

「……」

「チッ、声が出ないならあんたは用済みだわ……死になさい……!!!!!」

 裕美は奈々子の首を切り落とした。その切り落とされた顔の目からは最期の涙がこぼれていた。

「アハハハハハ……誰もいなくなっちゃった……アハハハハハ……」

 悪魔の笑いを聞いているのは、腕・足を失った男の屍と、腕・足・首を失った女の屍だけだった。悪魔はただ笑い続けた……だが、その目からは涙が流れていた。

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