第2章
尾行
「じゃあ、行ってくるよ。昨日と同じくらいに帰るよ。また取引があってね。忙しいんだ」
「そうなの……また1人の時間が多いんだ……寂しいな。なるべくで良いから早く帰ってきてね。寄り道せずに。車に気をつけて。行ってらっしゃい」
裕美は智也を見送った。
「なんてね、今日は智也を監視……もとい、見守りに行っちゃうんだから!! 待ってて、智也!」
裕美は支度をし、智也の会社へ向かった。
――智也が勤めている会社前
「ここが智也が勤めている会社……たか~い!! すごいなぁ。何階に智也は在籍しているのかしら~。気になる~。でも、今日は職場見学に来たわけじゃない。今日も取引があるって言っていたから営業に出る為外へ出るはず。それからをしっかり見張っていなくちゃ。流石に……会社内でそんなことしている暇はないわよね。それに……張り込みの準備もしてきたし!!」
その両手にはあんぱんと瓶の牛乳。
「やっぱ、張り込みといったらこれでしょ!」
王道
――しばらくして、
智也が会社から出て取引先に向かい始めた。
「あっ智也が出てきた。害虫はどんな風にやっつけるのがいいかしらね……。ウフフフフフ。智也、心配しないでね。私が他の女から智也を守るから」
裕美は智也を尾行している。
「もぐもぐ。今の所、姿を現さないわね。誰もいないわ。この私に怖気づいているのかしら」
確かに裕美の周りには誰もいない。視線の先に智也が居るぐらいだ。皆、裕美の負のオーラに本能が危険だと察知し、スーパーの安売り目当てで出かけた主婦や、散歩でぶらぶらしていた人や、遊んでいた子供達すら近づけさせない。
そんな殺気を裕美は放っていた。誰もいないわけである。
あんぱんを食べながらそんな気を出せるとは……。
「あっここが取引先の会社か、本当似たような建物が多いから困ったよ。誰かに聞こうとしても今日に限って誰もいないし……」
その原因が自分の妻のせいであるとは智也は知らない。
智也は建物の中へ入っていった。
「まだ、現れないわね! でもとりあえず2個目いっちゃいますか!! 朝ごはん食べてなくてお腹空いているし……」
裕美はあんぱん2個目へ突入した。
裕美は夫と同じ電車へ乗る為朝ごはんを食べていなかった。害虫駆除の準備は色々忙しいのだ。
「これから、害虫と戦うんだからしっかり栄養摂らないと♡腹が減っては戦はできぬ♡」
何百年前も前に武士が残した言葉を現代の奥様が言うとは……物騒な世の中だ。
しばらくして、智也が取引が終わったのか建物から出てきた。
「よ~し、今日の取引は終わった~。予定より早く終わったなぁ。あの人待っててくれてるかなぁ」
(むぐっ!! あの人!? あの人って誰よ!!この目で見てやる! 絶対に女だわ!)
裕美はあんぱんを牛乳で流し込み、智也の後を追った。裕美の憎悪、嫉妬、怒りなどの負の感情が心にひびをいれていく。もう壊れる寸前だった。
抑え込まれていた人格が鼓動し始めた。
智也の向かった先は喫茶店だった。
「ここに、いるのね! で、でもまだ女だと確定したわけではないわよね……。でも……、女なら……殺ってやる……」
裕美は外から中の様子を覗いていた
智也は席に着いていた。その目の前に座っていたのは見知らぬ女だった。
「女……私服だわ……仕事場の同僚とか……どっかの会社のOLで休みとか……」
智也と女は楽しそうに笑っていた。裕美には見せないような笑顔で……。
彼女は見てしまった、夫の浮気現場を。
その目に映る全ては真実で……
でも、頭はその情報を処理できなくて、
頭が考えることを拒絶していた。現実を受け入れたくなかった。
「智也が……私以外の女と楽しそうに話して笑ってる……どうして?……私、あなたのそんな笑顔見たことがないわ……信じていたのに……私だけを愛してくれていると……ずっと……私だけを幸せにしてくると……ずっとずっと……。……許さない。あんな奴、私が止めを刺してやる……」
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