時は戻らない。星は昇らない
@inya1616
第1話
友達と海に来た夜。
僕はホテルのバルコニーで夜空を見上げていた。
ーーごめんなさい!
その言葉を聞いたのは数時間前。
雰囲気と謎のノリで人生三度目の告白は散った。二度あることは三度ある。
と言うが、それは事実で正しい。
後悔はしている。だが、時は戻らない。
僕が「好き」という一言を言わなければ、今の関係は壊れなかったことは間違いない。
しかし、「好き」と言わなかったとしても進展することはなかっただろう。
今は一人。
男友達はもう寝てしまった。
隣の部屋の女友達……彼女も寝てしまったのだろうか?
ってどうでもいいことか。
「はぁ……」
ため息が自然ともれ、目頭から輝く水が溢れ出す。どんどん視界がぼやけていき、星が次々と流れていく。
これは『流れ星』ではない。
ただの僕の涙。
涙が落ちる度に目に映る星が流れるのだ。
今の僕だけが。
夜に失恋した僕だけが見れる景色。
ーー絶望的な絶景。
彼女にも見て欲しい。
なんて少し性格の悪いことを言ってしまった。
「何で泣いているの?」
優しく温かい幼馴染の声が横から聞こえた。
女友達の中で唯一起きていたようだ。
そしてバルコニーで僕とは違い、海を眺めていた。
そんな幼馴染に僕は鼻をすすり、言葉を返す。
「……星を降らすためかな?」
「それは君が見たかった景色なの?」
「いや、僕はお前が見ている景色を見たかったさ」
「そう。確かに真逆の景色だしね」
その言葉に自然と視界が幼馴染に向く。
「今、私が見ている景色は星が昇っていく景色」
ふふっと笑い、一度呼吸を整えて言葉を続ける。
「海に映る流れ星は昇っていくんだ」
「そうなのか。僕にはぼやけて見えないよ」
「だろうね。じゃあ、また今度見に来ようよ?」
「えっ……」
僕は右手の掌で涙を拭い、幼馴染を見る。
すると、幼馴染もこっちを見ていた。
「また二人で……二人で」
「それは僕を慰めているのか?」
「いいえ、私は……ううん。何でもない」
そう言い、彼女はバルコニーから姿を消した。
それにしても、何か言うつもりだったのだろうか?
「……それよりまた二人で、か……」
僕の視界だけにあった星降る景色は消えていた。目頭は熱いが体は潮風に吹かれ、少しだけ寒い。
「寝るか」
僕は男友達の寝相の悪さに、少し笑みを浮かべ、夜空より暗い夢の中へ落ちるのだった。
時は戻らない。星は昇らない @inya1616
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