久米の池
ツヨシ
第1話
私の地元は多くのため池がある。
そして水場は人の死と密接な関係がある。
私の家の前の池もそうだ。
私は今、三十代だが、私が生まれてからもこの池で二人が命を落としている。
一人は少し離れた場所に住んでいた中年の女性。
自殺とみられている。
もう一人は私もよく知っている近所に住んでいた還暦を過ぎたばかりの男。
酔っぱらって池に落ちて死んだとされている。
仕事を辞めてから、朝から毎日のように酒を飲んでいたからだ。
二人死んだからと言って、その人が死ぬところを誰かが見たわけではない。
気づくのは死体が発見されるからだ。
私も自分の家の窓からため池がよく見えるからと言って、人が死ぬ場面を見るとは思ってもいなかった。
しかしある日、窓から池を何気なく見ていると、池の反対側に人が立つのを見た。
ため池としては少しばかり大きめの池だが、湖のように大きいわけではない。
反対側に人がいれば、小さいながらも人がいることぐらいはわかる。
どうやら老婆のようだ。
その老婆の動きがなんとなく不自然に感じたので気にしながら見ていると、手を合わせるような動きをした後に老婆が池に飛び込むのが見えた。
――ええっ!
私は家から飛び出ると、池の向こう側に走った。
そして息が切れそうになったころ、老婆がいたと思われる場所に着いた。
そこには一足の草履がそろえて置かれていた。
しかしそれだけではなかった。
老婆のものと思われる草履の左右に、女物と男物の靴が一足づつ、きれいに並べられていたのだ。
終
久米の池 ツヨシ @kunkunkonkon
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